【国会議員の目】衆議院議員 自由民主党  牧島 かれん氏

ODA拡充や数値目標の議論が改定大綱に
人間の安全保障、国際保健の推進をさらに
国際情勢が複雑化、深刻化し、「複合危機」とも言われる中、自民党国際協力調査会長として、日本の国際協力の在り方を定める開発協力大綱の改定に向けた議論や提言のとりまとめにあたった牧島かれん衆議院議員に調査会での議論や国際保健をはじめとする国際協力への考えを聞いた。

衆議院議員 自由民主党  牧島 かれん氏
1976年神奈川県生まれ。国際基督教大学卒、米ジョージワシントン大学ポリティカル・マネージメント大学院で修士号、国際基督教大学大学院で学術博士号取得。米国同時多発テロを間近で見たことを契機に国政を目指し、2012年衆議院議員に初当選(現在4期目)。デジタル大臣、行政改革担当大臣、内閣府特命担当大臣(規制改革)歴任。党国際協力調査会長。AU議連、ユニセフ議連所属。
牧島氏公式サイト

 

外交力強化へ提言取りまとめ
 自民党の国際協力調査会などによる提言「転換期にあって健全な国際社会の発展と国益を守るための新たな開発協力大綱に向けて」の第一次提言は、2022年5月に松本剛明前会長の下、まとめられた。2022年11月に私が同調査会長に就任し、今年3月に第二次提言をとりまとめた。
 調査会では、ロシアによるウクライナ侵攻は私たちが直面している危機であり、民主主義、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序が重大な挑戦にさらされているという議論があった。日本が果たすべき役割を世界に対してしっかりと打ち出し、民主化に取り組む国々の支援もしていかなければならないという意見もあった。 開発協力大綱の改定に向けた議論で大きかったのは、「防衛と外交は車の両輪」という考えだ。防衛力のみならず、外交力も強化しなければならないというところが大きかった。
 調査会では一貫してODAを拡充すべきだと主張してきたが、提言ではより強く、「大幅に拡充すべき」とした。なおかつ国際目標である対国民総所得(GNI)比0.7%を目指すということも入れた。

女性支援とTICADでPT設置
 私が会長になってから調査会内に二つのプロジェクトチーム(PT)を立ち上げた。一つは女性支援に関するPTであり、もう一つはアフリカ開発会議(TICAD)PTだ。女性支援に関しては、大使の方を招いたり、アフリカで女性のエンパワーメントの活動をされている女性の方の声を聞いたりした。また、新たな情報記録技術であるブロックチェーンの専門家の話を聞くというような意欲的な取り組みも行い、透明性を高め、必要なところに必要な支援がしっかりと届く仕組みをつくるといった新たな視点を持った提言にできた。
 日本が主導してきたTICADは今年30周年を迎える。アフリカに関しては、アフリカ連合(AU)議連などによる議員外交も進められ、私自身もメンバーとして、これまで西アフリカを中心に8カ国を訪問している。TI CADでは、「アフリカとともにアフリカの未来を作っていく」という日本ならではのメッセージを打ち出してきたが、2022年にチュニジアで行われたTICAD8は、コロナ禍だったこともあり、規模はかなり縮小された。30周年という節目の年に、今後いかにアフリカと向き合っていくのかということも意識して、大綱に書けるところは書くべきだと議論を進めた。
 TICAD PTを中心に、在京のアフリカ各国の大使館すべてを訪問し、在京大使に話を聞いた。TICADに対する評価もいただいたし、TICADで話し合われたことのフォローアップを在京大使館とも共有してほしいという意見や、他のアフリカ諸国の良いモデルを自分たちも参考にしたいという意見もあった。政府による支援だけではなく、日本企業への投資の期待も高い。TICAD PTは継続して動いているので、まだまだいろいろな議論がこれから出てくる。
 こうした議論や取り組みを経てまとめた提言を、大綱改定にあたって重く受け止めていただいたのではないか。改定では、有識者の議論もあり、さらにパプリックコメントの募集もあったので、市民社会の皆さんを含めて広く関心を持っていただき、さまざまな声が反映されたと思う。調査会の議論も十分に反映されたと思っている。

 

=エジプトの日本式学校(EJS・エジプト日本学校)を視察する牧島氏

 

G7での感染症言及は大きい
 G7広島サミット(主要国首脳会議)では、国際保健に関して、成果文書(首脳コミュニケ)の中に「我々は、グローバルファンドの第7次増資の歴史的な成果に留意し、HIV/エイズ、結核及びマラリアの流行収束に向けたG7及びその他の国々からの財政支援を歓迎する」という文言が入った。このことは評価されるべきことだと思っている。コロナも大事であり、顧みられない熱帯病(NTDs)の対応も重要だが、HIV/エイズ、結核、マラリアの流行収束の意思がしっかり示されたことは大きい。また、国際保健が日本の国際協力の一つの柱だと示すこともできた。
 国際協力においては、人間の安心保障という大きな理念があり、そのもとに具体的な項目がある。女性や子どもをはじめ、紛争や災害などさまざまな情勢によって、より脆弱な立場に置かれる人たちに対しての支援を続けなければならない。
 国際保健に関しては、エボラ出血熱のときの苦い経験がある。AU議連でリベリアを担当していたため、エボラ出血熱が流行する前、現地を訪問し、ノーベル平和賞を受賞したエレン・ジョンソン・サーリーフ大統領ともお会いしていた。そのリベリアなどで2014年、エボラ出血熱が流行した。「日本の薬が使えるかもしれない」「日本の医療の知識や経験も活用できるかもしれない」とも言われていたが、実際にエボラ対応で存在感を示したのはアメリカやヨーロッパのチームだった。
 だからこそ、コロナの教訓はしっかり生かし、感染症はグローバルイッシューだと位置づけて、これからも取り組んでいきたい。

他国での危機も自らの課題
 有権者の皆さんに国際協力への理解を深めてもらうため、アフリカを訪問した後、地元での国政報告会の中で、アフリカについて紹介したことがある。アフリカで活動している若い日本人の方にも来ていただき、現地のコットンを使ったタオル作り、ガーナのチョコレートのフェアトレードなどの活動を紹介した。日ごろ食べているチョコレートについて、カカオを作っている人たちにとっては高級品で、自ら口にすることはできない現実があることも知っていただいた。
 エボラ出血熱のときには有権者の皆さんに「遠い国で起きていることかもしれないが、これだけ人が行き来するようになっているので、日本に入ってくる可能性もある」と申し上げた。それはコロナで現実になった。他の国で起きている危機に無関心であってはならず、対策や対応を考える必要性を、国民の皆さんも痛感されたと思う。理解を得ながらさらに国際協力を進めていきたい。

 

本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2023年7月号』に掲載されています。