【国会議員の目】衆議院議員 自由民主党 阿部 俊子氏

国際協力は世界平和と国益のバランス
女性支援に暗号通貨の活用を

中学生の時、開発途上国の児童労働の写真を見て、途上国支援を意識し始めたという阿部俊子氏。「自分の国の貧困にこそ目を向けるべき」とのマザーテレサの考えなどに触れ、政治家の道を目指したという。途上国の実情を踏まえて行動を続ける阿部氏に、最近の活動や国際協力への思いを聞いた。

衆議院議員 自由民主党 阿部 俊子氏
1959年宮城県生まれ。短期大学卒業後、看護師となる。米イリノイ大学シカゴ校で看護管理博士号取得。東京医科歯科大学助教授、日本看護協会副会長を経て2005年、衆議院議員に初当選(現在6期)。外務大臣政務官、外務副大臣、衆議院外務委員長、党国会対策委員会副委員長、党副幹事長などを歴任。衆議院農林水産委員会 筆頭理事、党国際協力調査会女性支援PT座長、党外国人労働者等特別委員会 副委員長
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ザンビアなど訪問し実情把握
 2023年夏、アフリカのモザンビーク、ザンビア、エチオピア、南米のコロンビアを訪問した。モザンビークでは国際協力機構(JICA)が、同国北部のナカラ港を起点に、モザンビークを横断して、内陸国のマラウイ、ザンビアまで延びる大型幹線道路「ナカラ回廊」の整備を進めていて、これが間もなく開通する。天然ガスを持つモザンビークにも恩恵はあるが、ザンビアの大きな発展が予想されている。
 これまでザンビアは、距離的にも離れている南アフリカを経由しなければ輸出入ができなかったが、ナカラ回廊の開通によって、南アを経由する必要がなくなる。ザンビア国民の平均年齢は17 歳と若く、人口ボーナス(生産年齢人口の割合が上昇し、労働力増加率が人口増加率よりも高くなる)により、経済成長も大きく期待できる。
 21 年に就任したハカインデ・ヒチレマ大統領は、反汚職、民主主義、法の支配などを掲げ、「賄賂はやめる。子どもたちを全員学校に行かせる」と、学校の建設を進め、教育に力を入れている。
 現地で保健大臣(女性)とも面会し、医療におけるデジタル技術の導入計画について知った。識字率が低いため、目の虹彩を使った認証システムを導入予定で、これをドイツが支援しているという。帰国後、在日ザンビア大使と面会し、日本も計画に関われないか、ドイツとも相談を始めている。
 外務大臣政務官や外務副大臣も経験し、要人との面会などもあったが、現地の実際の様子は分からない。本当はどうなのかを知るには、やはり自分で行って、自分で見て、聞くのがいい。

東日本大震災で受けた支援
 開発協力大綱が改定され、「国益」もより重視された。大変いい内容で、林芳正前外相が始めた方向性を支持したい。
 政府開発援助(ODA)は、「国益」と「世界平和」のバランスが難しい。しかし、ODA の成果を国益につなげることは、日本の納税者には重要なことである。それは日本のODA が誰のためのものかを考えることだからだ。
 11 年の東日本大震災で、日本は国連や各国から支援を受けた。それまで日本は「支援する側」だと考えていたが、「支援を受ける側」になった。国連のジュネーブ本部(スイス)に設けられた記帳所では、大変な行列ができた。並んでいる人たちが抱き合って「私の大好きな日本がこんなことになってしまった」と泣いていたという。
 アジアなどの自分たちのご飯も食べられないような子どもたちが、「日本が大好きだから僕のお金を使ってね」と、大切なお金を集めて日本に送ってくれた。こうしたことが、先輩方々が粛々とODA を行ってきたことの成果ではないだろうか。
 安全保障をめぐる議論も高まっているが、安全保障の礎が外交だ。中国とも、どんなことがあっても話し合いのパイプはつないでおくことが重要だ。中国との間では08 年12 月に中国海警局の船舶が尖閣諸島周辺海域の日本の領海に侵入する事件が起きた。この事件の直後から中国側の中日友好協会の人たちとやり取りを続けている。政治ではいろいろあり、国として言わなければならないことは言うが、話し合いは続けよう、文化交流も続けていこう、と考えている。

=コロンビアのベネズエラ難民キャンプで子どもたちと

援助成果を確認し改善を求める
 日本の国益として、人間の安全保障も重要である。これは、国際益を考える日本の品格でもある。人間の安全保障の取り組みを進めるためにも、ODA が適正に実施されているかどうかは、しっかりと確認しなければならない。
 JICA は我が国の国際協力の重要な手段である。外務大臣政務官のときも外務副大臣のときも、頻回にJICA 本部を訪問し、どんな事業をやっているのか、どの国からどんな人を呼んでいるか、その成果はどうか、などを聞いていた。数値での評価が難しい事業もあることは認識しているが、納税者の理解を得るには数値目標」は必要であると考える。
 政務官のときにはまた、外務省に、日本が資金を拠出している国際機関についての評価表をつくるべきだと伝え、外務省一丸となって導入してもらった。イギリスの国際機関評価の仕方を参考に、取り組みを伝える広報をしっかりやっているか、日本人職員がどれだけ含まれているかなどを確認し、日本人職員が少ない機関には採用を増やすように働き掛けた。
 オランダ・ハーグの国際刑事裁判所に18 年と23 年に訪問した。前回、訪問したとき、「日本人職員が少ない」と伝えたら、1人だった日本人インターンの枠が5人になった。今回、状況を確認すると、枠は増えたが、応募者が増えないという。一方で韓国人職員がどんどん増えている。日本の法曹界は移動の壁がある。また、韓国は司法試験に英語がある。法曹界が国際的な視野を広げるためにも、語学力が必要だ。

起業家支援や新技術にも注目
 国際協力の中では、女性支援に力を入れている。23 年にエチオピアに行った一番の目的も、JICAが進める起業家支援活動「ProjectNINJA」(Next Innovation with Japan)を視察し、女性支援からスタートアップ支援につなげられないか、事業を進めるJICA 専門家と相談するためだった。
 これからさらに実現したいのは、女性の経済的自立のため暗号資産等を活用したマイクロファイナンス(小規模貸付)だ。暗号資産などのブロックチェーン技術を活用することで、透明性と追跡性が確保され、ODA 資金の流れを把握することができる。自分や自国が出した資金がしっかり支援対象確認することができ、すでにユニセフが試験的に使い始めている。
 国によっては現地通貨が弱く、外貨も少ないために、食料や日用品を輸入できないという課題を、暗号資産の導入によって解決できることもあるだろう。

 

本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2023年11月号』に掲載されています。