【国会議員の目】衆議院議員 立憲民主党 末松 義規氏

国民を巻き込んだODAでファンを増やせ
戦略性重視の大綱改定は高く評価
今回改定された開発協力大綱では、今後の日本の開発協力の方向性が明示された。一方で、SNSなどでは国際協力への批判的な意見が発信されるなど、国民の理解は十分とは言えない。外務省で国際協力を担当した経験もある末松義規衆議院議員に、現状への評価や今後の国際協力の在り方を聞いた。

衆議院議員 立憲民主党 末松 義規氏
1956年福岡県生まれ。一橋大学卒業後、外務省入省。プリンストン大学院修士。在イラク日本国大使館二等書記官、経済協力局調査計画課の首席事務官、中近東第二課などで勤務。94年、外務省を退官し、96年、衆議院議員に初当選(通算7期)。内閣府副大臣、内閣総理大臣補佐官、復興副大臣、衆議院東日本大震災復興特別委員会委員長などを歴任。衆議院財務金融委員会筆頭理事、党企業・団体交流委員長代理
末松氏公式サイトはこちら

 

知日派・親日派育成も重要
 今回の開発協力大綱の改定については、非常に高く評価している。今、日本の開発協力の戦略性、経済安全保障を含めたサプライチェーンの強靭化、あるいは食料やエネルギーの多角化と確保などが求められている。日本にとって何が重要なのかを深く掘り下げた中で、政府開発援助(ODA)をどうするのかを考えることは重要だ。
 外務省時代、経済協力局調査計画課の首席事務官として、途上国各国の日本との関係や日本に対する貢献度を分析し、その上でその国の評価や関係を考えていくという仕事を進めた。
 今は、サプライチェーンの問題があり、途上国には地下資源を持っている国も多いことから、これまで以上に各国との関係を戦略的に評価しなくてはならない。経済安全保障の戦略から外交を考え、その一環としてODA を考えなければならない。 例えば、中国との関係が危機的な状況になり、食料も買えない状況になったとき、どういう形でやっていくのか、戦略を立て、それに合わせた形で途上国との協力を進めていくという視点が必要だ。
 改定大綱に盛り込まれている「知日派・親日派を増やす」という視点も非常に重要だ。 ODA も活用して、今後影響力が強まりそうな政治家や政府の幹部となりそうな人に、本当の意味で、親日派になってもらいたい。
 2022 年、インドネシア・ジャカルタ首都特別州のアニス・バスウェダン知事が来日した際、面会する機会があった。バスウェダン知事はジャカルタの公共交通システムを日本のようにしたいと考えていると聞く。なぜそういう発想になったかというと、日本の上智大学に留学したことがあり、そのときに好感を持ったらしい。バスウェダン知事は次の大統領選挙の候補者として名前も挙がっている。
 来日し、日本や日本人に厚遇されたという印象を持ってもらえれば、ロビー外交の基本にもなる。「こういう政策をやりたい」となったときに、相談し、調整を頼むこともできるようになる。

相手国のための協力を実践
 日本のODA はこれまで、相手国が何をやりたいか、どのようなものがほしいかを聞きながら、相手国のレベルや状況に合わせて事業をやってきた。「要請主義」の欠陥もあったが、相手国が学べるものを提供してきた。
 例えば、アメリカの援助であれば、こうしたプログラムがある、この中からどれがいいかを選べばそれを実施する、最新の技術や機材も提供する、こんな感じだ。
 日本のODA は、「この技術は今はちょっと無理だから、その前にレベルアップを図りましょう」「新技術はその後で導入したらどうでしょう」という形でやってきた。だから感謝されてきた。これは本当に「ともに生きる」の発想で、この伝統を生かしながら、続けていくことが重要だと感じている。

=超党派議員組織「国際人口問題議員懇談会(JPFP)」の会合で講演する末松氏

 

国民参加は「誉れ」を生む
 ODAでいいことをやって、海外から感謝されているのに、多くの日本人がそのことを知らない。広報がうまくいっていないということもあるが、国民の理解を得るためには、特定の企業やNGO だけでなく、多くの国民を巻き込むような国民参加型のODA にしていく必要がある。
 外務省の「草の根・人間の安全保障無償資金協力」や「草の根文化無償資金協力」、国際協力機構(JICA)の「草の根技術協力」などで、地方自治体やNGO などが国際協力に参加する仕組みはある。これを大幅に拡大して、積極的にやっていくべきだ。
 その結果、「自分の取り組みがあの国をよくした」と思うことができ、それが事業に関わった人たちの「誉れ」になる。「誉れ」がつくられるほど、ODA の理解者やファンが増えていく。
 決まった企業などでODA 事業を進めていれば、効率はいいのかも知れない。しかし、多くの日本人にとってODA の存在価値を大きくすることが重要だ。「国民のためのODA」にするためには、少なくとも3~4割の事業を国民参加型にするべきだろう。
 自治体で協力・連携する国を決めてもいい。例えば、うちの自治体はタイをやると決まると、学校は学校で何をするのか考え始める。ODAで支援して先生を半年、現地に派遣するということもあってもいい。すると、先生もタイ好きになり、その学校の生徒もファンになっていく。あるいは、外国人を受け入れるホストファミリーにかなりの補助を出してもいい。
 こうした取り組みをしていくことで、外国人に対して「よく知らないけど、変な人たち」と思っている人たちの意識も変わり、相互理解も深まってくる。

安全保障は別枠で考えるべき
 気になるのは、安全保障に関わる動きだ。例えば、「第二ODA」のような形で議論されている「政府安全保障能力強化支援」(Official Security Assistance)。民主主義などの価値観を共有する途上国を「同志国」と位置づけ、軍に装備品の提供やインフラ整備を行う枠組だが、途上国の発展や開発を目指してきた従来からのODA の魂とは異なる。当初の金額は少ないかも知れないが、増えていくと、伝統的なODA の金額が減っていく懸念もある。
 日本は北大西洋条約機構(NATO)加盟国でもないのに、NATO 加盟国すら達成していない防衛費の対GNP 比2% への拡大を目指す方針を表明している。このこと自体にも疑問はあるが、安全保障はODA とは別の概念であり、安全保障関連は、ODA ではなく防衛費でやるべきだ。
 途上国が栄えれば日本と共存共栄ができる。改定大綱にも明記されたがODA 予算も国際目標の国民総所得(GNI)の0.7%を目指すべきだ。現在は年間6,000 億円程度だが、1 兆円程度は必要だ。
 最近、若者が海外に対する興味を失いつつあると聞く。これは危機だと思う。このままの状況が続けば、外交の舞台で日本が無価値になってしまう。だからこそ、若者を含め、多くの日本国民を巻き込む国際協力を進め、理解を広めていかなければならない。

 

本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2023年9月号』に掲載されています