【国会議員の目】衆議院議員 自由民主党 英利 アルフィヤ氏

人権を守る国際社会を次の世代に引き継ぐ
次の世代に引き継ぐ

2023年4月に行われた衆議院千葉5区補欠選挙で初当選したのが、英利アルフィヤ氏。ウイグル出身でトルコ系(ウイグルとウズベク)の両親を持ち、国連での勤務経験もある。多様性の重要性を訴え、外交・安保の重要テーマとして人権外交と法の支配を掲げる英利氏に聞いた。

衆議院議員 自由民主党 英利 アルフィヤ氏
1988年福岡県生まれ。父はウイグル系日本人、母はウズベク系日本人。1999年に家族で日本に帰化。2012年に日銀入行、2016年国連へ。2022年まで国連事務局本部政務局政務官補、事務次長補付特別補佐官(安全保安担当)などを歴任。米国ジョージタウン大学外交政策大学院ロシア・東欧・中央アジア研究科修了。衆議院法務・財務金融委員。自民党青年局次長、女性局次長、広報戦略局次長。
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国民の多様な姿が見えない国会
 中国・広州のアメリカンスクールに通っていた中学生のとき、9・11(アメリカ同時多発テロ、2001 年)が起きた。高校生のときには、イラク戦争が起きた。欧米諸国出身の生徒も少なくなく、「ムスリムは許せない」などと言う生徒が出てきた。
 一方、社会や国語の教師たちは「イスラム教やアフガニスタンについて、本当はどうなのかもう一度考えよう」と促してくれた。
 学校では、第二次世界大戦について議論する機会もあった。香港や一部の台湾、韓国出身の生徒は日本に対する批判的な意識を持っていた。私は出身地の北九州で子どもの頃から可愛がってくれた方々の戦争体験や、北九州市は八幡製鉄所があったために空襲を受け、その結果、多くの民間人が亡くなったことも話した。
 アメリカ人、韓国人、日本人、華僑文化圏、イスラム文化圏の生徒など、多様な立場を反映した考え方からみんなが学ぶことができた。攻撃し合うのではなく、理解することができた。そこから外交や政治に対する自分の見方や関心が生まれた。
 国連では、ネパールやブータン、バングラデシュなどの選挙について、民主主義がきちんと機能しているかの分析にあたった。日本は成熟した民主主義国で、立候補の自由、投票の自由、安全性はすごく確保されている。
 しかし、民主主義の根幹にあるべきダイバーシティ(多様性)やレプレゼンテーション(代表性)からみると、衆議院では女性議員の比率が10%に至らず、参議院でも25% と、国の50% 以上を占める女性の人口比率を反映する形となっていない。海外育ちや海外にルーツを持つ日本人、バイリンガルやマルチリンガルなど、自分と似た背景を持つ議員は国会にほとんどいない。
 「選挙・政治分析のプロフェッショナル」として国連で仕事をしてきて、自分の国の現実に気づいてしまった。「このままでは日本は世界に取り残されてしまう」と大きな危機感を持った。変えようと思ったら自分がまずチャレンジするしかないと考えた。

人権領域は中国以外でも縮小
 政策として、力強い外交・安全保障を掲げている。日本は、アジアで最も経済力のある民主主義国であり、国民が意識している以上に、尊敬され、信頼されている。そのことを国連で勤務する中で感じた。しっかり発言力をつけ、日本に期待されている国際的リーダーシップを発揮すべきだ。
 父がトルコ系民族のウイグル人であるため、私は日本で初めてのトルコ系ルーツの国会議員となった。トルコや中央アジアにはルーツを感じるので、こうした地域と日本をつなぐ活動もしていきたい。在日トルコ大使館とは親しくさせていただいている。トルコ人やウイグル人は元々親日的だが、私が国会議員となったことで、「やっぱり日本は友なんだ」と感じてくれている。ウイグル系の国会議員はトルコでも少ないので「日本の民主主義はすごい」と言ってくれる人もいる。
 外交・安全保障の中でも、特に力を入れていきたいのは、法の支配や人権外交だ。中国で育ち、ウイグルにルーツがある上、ウイグルの研究もした。かつては毎年、ウイグルに行き、現地で英語を教える活動もした。だからこそ、日本の平均的な国会議員と比べると中国に対する危機感は強い。
 今、私たちの世代で最悪な人権侵害の一つがウイグルで起こっている。この問題に国際社会がどのように対応するかによって、深刻な人権侵害に対する国際社会の前例が作られていく。なので、非常に強い危機感を持って見ているし、超党派の人権外交議連などで国際的な人権問題への対応について積極的に活動や議論を続けている。
 今、世界的に、人権スペース(人権が守られている空間)がどんどん縮小されていっている。人権を重んじる価値観を持った国がどう連携していくか、人権を重んじる国際社会を次世代に引き継ぐために、この状況を放置せずにどのように人権を守っていくのか。それが自分の世代の最大の課題だと思っている。そのために、しっかりがんばっていきたい。

各国の女性駐日大使と女性の政治参加について意見交換

独自の対話ルートは貴重な力
 意見が違うところはしっかりと主張していく姿勢が大事だ。そうした力強い発言ができる国でありたい。国際秩序が乱れる中、「何としてでも自国を守る」姿勢を示していかなければならない。
 その一方で、平和や外交の問題は、すべてに白黒を付けられるわけではない。気候変動の問題であれ、海外に進出している多くの日本企業や在外邦人を守るための対応であれ、すぐにそれらをないものにはできない場合もあらゆる外交手段について日本や日本国民にとって賢いことかということを最優先に考える必要がある。
 隣国に対しても、各国に対しても、一番国益につながることをやるのが外交だ。それらを包括的に見ながら、悪いことは悪いと言い、連携できるところは連携していく。そうしたことができる国が今後、強くなっていく。そのような力を付けられる日本でありたい。
 日本の人権外交を強化していくためには、日本だからこそできる貢献をしていくことが大事だ。日本は他のG7 諸国が持たない対話のルートを、ミャンマーやイランなど人権問題が懸念される国の当局と持っていて、信頼もされている。さまざまな外交の場面において圧力をかけるやり方ではなく、会話を続けられる国が日本だ。それは貴重な力であり、活躍していく余地がある。G7 諸国をはじめとする価値観を共有する国々にとってもありがたいだろう。
 取材でも国際会議でも言っているが、私の選挙区、千葉5区の有権者の多くは、人権外交やODA、国際平和や難民・人道支援などの分野で日本が引き続き貢献することを期待している。本当に誇りに思う。
 「ウイグル系だから」「国連出身だから」と期待されることもあるが、そのたびに、「私は代議士として地元の考えを代表している」と話している。そして、そういう日本を守らなければという認識で活動している。

本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2024年2月号』に掲載されています。