双方の国民にODAの「見える化」が重要
教育・文化財・防災などで日本らしさ発揮を
衆議院議員 自由民主党 松島 みどり氏
東京大学経済学部卒業後、1980年朝日新聞社に入社。政治部・経済部などで活躍し、1995年退社。自民党初の候補者公募に応じ、2000年初当選。2006年に第一次安倍内閣で外務大臣政務官に就任。国土交通副大臣、経済産業副大臣、法務大臣、衆議院法務委員長、自民党広報本部長などを歴任。衆議院東京14選挙区(墨田、荒川など)選出
ODA事業現場に「日の丸」明示を
政府開発援助(ODA)は日本外交で大きな役割を果たしているが、税金を使うODAに対する国民の目は厳しい。開発途上国での現場視察の経験から、「日本らしいODA」の展開が重要だと考える。また、事業現場では現地国民にも、訪れた日本国民にも明確に日本支援だとわかるよう、「見える化」を図るべきだ。インドネシア初の地下鉄、ジャカルタ都市高速鉄道が日本ODAで開通した時も、駅表示に日の丸をつけることを提案した。
日本らしさについては、エジプトやアルゼンチンなどで日本式教育を取り入れている学校を視察し、感心したことがある。エジプト・ギザ県の小学校では、毎日交代で「日直」の当番があり、生徒全員に役割を割り振っていた。
手洗い場には日本の学校と同様、ネットに入れたせっけんが蛇口に吊るされ、昼食前に一斉に手洗いをする。教室の掃除やゴミ拾い運動など、清潔を保つ教育がされている。また、校庭での整列や時間厳守、「廊下を走らない」など日本式の集団行動や生活の基礎を「全人的教育モデル」として教えている。
エジプトの大統領が来日した時、小学校を視察して日本式教育を高く評価し、モデル校200校を目標に普及を図っている。私が訪問した2019年には約50校がモデル校になっていた。日本の文部科学省も協力し、専門家の派遣や、教師の日本研修を実施している。
大エジプト博物館も日本が支援
エジプトでは、ツタンカーメン王の黄金のマスクなど古代の出土品を展示する大エジプト博物館が日本の協力で建設中だ。コロナ禍で遅れているものの、年内にも開館を目指している。総事業費約1,400億円の6割を円借款で支援し、日本人専門家が遺物の修復を指導した。
かつて欧米諸国はエジプトから発掘した遺物を持ち帰り、自国の博物館で展示したが日本はそんな「負の歴史」はないからこそ今回の協力につながった。博物館の入り口には「MUSEUM」とともに、縦書きで「博物館」と書かれ、館内の解説にもアラビア語、英語に加え、日本語表記もある。
日本から専門家が持ち込んだX線撮影装置や高精細デジタル顕微鏡などが修復に貢献し、地元に技術移転された。大博物館の修復センターは今後、中東・アフリカの文化財保存修復・研究の拠点になり、日本が技術を教えたエジプトの専門家が各国の研修生を育成する「三角協力」が期待される。
防災教育に「起震車」が活躍
もう一つ、日本らしさが発揮できる分野は防災だ。南米チリは地震・津波被害が多い国でもあり、日本から地震を体験できる「起震車」を供与するなど防災教育を支援している。
チリは先進国入りし、2018年にODA対象から「卒業」したが、今は日本が防災技術をチリに教え、チリが中南米諸国の専門人財を育成する三角協力を展開している。中南米25カ国の4,000人以上がチリで研修を受けた。
私は外務大臣政務官時代、ハリケーン災害が多いカリブ海諸国の関係者を集めた防災会議を東京で主催し、議長を務めた経験もある。防災に多くの知見を持つ日本は、災害の苦悩を共有し、防災協力を一層強化していくことが必要だ。
本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2022年9月号』に掲載されています。