【国会議員の目】衆議院議員 自由民主党 鷲尾 英一郎氏

日本らしい支援で途上国の仲間を
国際保健が有権者の理解のカギに

コロナ禍で外務副大臣を務めた鷲尾英一郎氏は、日本だけではなく世界的な感染症対策の必要性を実感したからこそ、国際保健の重要性は国民からも理解を得られるという。各国の支持を獲得し、仲間を作っていく、日本らしい支援の在り方も含めて聞いた。

衆議院議員 自由民主党 鷲尾 英一郎氏
1977年新潟県生まれ。東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、公認会計士・税理士・行政書士として独立開業。2005年、衆議院議員に初当選し、現在6期目。農林水産大臣政務官などを経て、19年に自民党入党。衆議院環境委員長、外務副大臣などを歴任。党副幹事長。党国際協力調査会所属。
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伝わらなかった協力の意味

 コロナ禍で外務副大臣を務め、国際保健(グローバルヘルス)の問題に直面せざるを得なかった。政府の一員から党に戻り、国際協力調査会などで活動した。安全保障環境の整備は日本としての外交の基本であるとの認識のもと、安保3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の改定に向けた議論に取り組むとともに、国際協力調査会として「開発協力大綱の改定をすべき」との議論に加わり、提言した。大綱制定から8年がたち、食料や希少資源をめぐる経済安全保障やグローバルヘルスなど、制定時には意識されていなかった課題がいくつもあったからだ。政府としても見直しを検討していた時期でもあったと思うが、提言を受け止め、開発協力大綱の改定がなされた。この3年ほど、国際協力に関わる分野で、ある程度、力を尽くせたと考えている。
 国際協力調査会の提言でも、改定された開発協力大綱でも、政府開発援助(ODA)の拡充を求めている。しかし、現在の財政状況や予算編成作業を考えると、予算編成を抜本的に見直してODA を大幅に積み上げるというのはかなり難しい。
 また、国民の反応や受け止め方も厳しいものがある。2022 年にチュニジアで開かれた「第8回アフリカ開発会議」(TICAD8)で、岸田文雄首相は2023 ~ 25 年の3年間で官民合わせて総額300億ドル規模の資金がアフリカ支援に投じられると表明した。日本としてもアフリカの成長による利益を取り込んでいくという視点なのだが、「日本国内も大変なときに海外にそんなに援助している余裕があるのか」と受け止める人もいた。結果的に「誤ったメッセージ」として届いたところがあり、どのようにして本来の視点を説明していくのか、難しいが考えなければならない。合わせて、他の公的資金との連携や民間資金の活用、民間企業との連携も重要になってくる。

確実にワクチンを届けるには

 大規模なインフラ整備などで中国などの存在感が大きくなる中、日本らしい支援がより重要になっている。日本らしい支援の例を3つあげたい。
 1つは、コロナワクチン支援での「ラストワンマイル」の支援。人の命を守るためには、ワクチンや購入資金を支援するだけではなく、実際にワクチンを届けることが必要だ。しかし、アフリカなどでは、交通事情やワクチンの低温保管が課題となることもあった。日本は車に積み込み、持ち運ぶことができるポータブルタイプの保冷庫の支援も行った。ここまで気にする国は多くはない。
 2つめは、明治以来の日本の公衆衛生の経験を生かすこと。国によっては、最新の設備を備えた医療施設の周辺にごみが散乱しているようなところもある。上下水道の整備も遅れていたりする。何から手を着けるかも難しいし、予算の制約もあってすべてを支援することも難しいが、水道整備を含めた日本の経験を伝えることで、マラリアやHIV/ エイズの対策などに役立つ部分もあるだろう。
 3つめは、人材育成。中国による支援の場合、建設に携わる労働者も連れて来て工事をすることも多い。一方で日本は現地の人たちに技術やノウハウを伝えることを重視してきた。組織づくり、組織運営についての研修なども行い、ものごとがうまく回るしくみをつくろうとする。これは中国などのやり方とはかなり異なる。
 東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国やアフリカが成長し、「発展途上国」という言い方に代わって、「グローバルサウス」と言われることも多くなっている。多極化する世界の中で、日本がグローバルサウスにどのように協力していくのかは、日本の「仲間づくり」に関わり、国益にもつながっていく。
 「人間の安全保障」の推進も重要だが、国内的にはそれだけでは、なかなか納得してもらえない。ODA などを通じて、いざとなったら日本と一緒に行動するという友好国が増え、日本らしい支援の仕方が国際的にも評価されるほど、日本の国益にもなる。有権者のみなさんには、そうした話をしているし、実際に日本の協力や取り組みへの評価は高まってきていると感じている。

ザンビア視察の様子。後列右から3人目が鷲尾氏

世界的対応の必要性を実感

 2023 年夏、グローバルヘルス分野の活動に助成する「オープン・フィランソロピー」(本部=アメリカ)の招へいを受け、ザンビアを視察した。ザンビアでは、汚職・腐敗の撲滅と貧困層を含めた教育普及の取り組みが進められている。日本の支援によって整備された医療施設を訪れたところ、支援がどれほど役立っているか、いかに日本の支援に期待しているか、強調された。この思いを伝えられれば、日本の納税者の理解も得られるではないかと感じた。
 グローバルヘルスに関しては、コロナ禍を経験したことで、日本がこの分野で協力していくことや、世界全体として取り組んでいくことの重要性は理解されたと思う。感染症について、日本だけが取り組んでも感染症の流入を完全にシャットアウトすることは難しいし、日本人が渡航先で感染症のリスクにさらされることもある。コロナだけではなく、かつてはSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)、エボラウイルス病(エボラ出血熱)などの流行もあった。気候変動の影響も含め、今後も新たな感染症がいつ、どう出てくるか、分からない。だから日本が国際社会に協力していくというメッセージは納得してもらえるし、私自身もこうした課題に引き続き関わっていきたい。
 状況が厳しい中、特に期待したいのは、スタートアップ企業や社会起業、若い世代による国際協力分野での活躍だ。リスクを取りながら、いかに社会課題の解決とビジネスを両立させられるか、向き合っている。その中から成功事例がどんどん出てきてほしいと期待しているし、政府としてのサポートや広報活動もしっかりやっていくべきだ。予算や国内の世論に厳しいところはあるが、理解が進んでいるところもあり、しっかり伝えることで理解は得られると考えている。

 

本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2023年12月号』に掲載されています。