【国会議員の目】衆議院議員 公明党 古屋 範子氏

グローバルヘルス分野でより積極的な貢献を
3大感染症やNTDsの研究開発も重要

古屋範子氏はワクチン問題をきっかけに保健分野を中心として国際協力に関わり、保健分野のODAの重視や予算の増額、開発協力大綱での明記の重要性などについても積極的な行動や発言を続けている。ポストコロナを見据え、今後、日本がどのような取り組みをすべきかを聞いた。

衆議院議員 公明党 古屋 範子氏

1956年埼玉県生まれ。2003年衆議院議員に初当選し、現在7期目。総務大臣政務官、厚生労働副大臣、衆議院総務委員長、経済産業委員長を歴任。現在、衆議院消費者問題に関する特別委員会理事、党副代表、党国際保健(グローバルヘルス)推進委員長。女性・平和・安全保障(WPS)議会人ネットJAPAN会長代行も務め、党女性委員長、党男女共同参画社会推進本部長としても活動。

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ワクチン問題から国際協力へ 

 新型コロナウイルス感染症の流行があり、日本の皆さんもワクチンの必要性を肌身で感じ、理解を深めた面がある。今まで遠いところにあるように感じていたアフリカの健康問題が日本の国民の健康にも直結していて、「昨日海外で報告のあった感染症が、今日、日本で感染拡大してしまう」と感じられるようになったと思う。国民の理解が進み、政府の姿勢も変わってきたことで、コロナワクチンの世界への供給を図るCOVAXファシリティーへの早期の参加もでき、日本がこの分野で世界をリードすることにもつながった。 

 私自身の国際協力、とくに国際保健(グルーバルヘルス)との関わりは、日本国内のワクチン政策がきっかけだ。国会議員となった2003年当時、日本のワクチン政策は世界から20~30年、遅れていた。今や当然となっているHib(ヒブ=インフルエンザ菌b型)感染症のワクチンなども定期接種の対象になっておらず、世界とのワクチンギャップを埋めていく必要があった。一つ一つ、対象の拡大を推進した。 そうした取り組みの過程で、2013年に横浜で開かれた第5回アフリカ開発会議(TICAD V)のパネルディスカッションで、開発途上国の子どもたちの予防接種拡大に取り組むGaviワクチンアライアンスのセス・バークレー事務局長と同席した。 

 バークレー事務局長の話などから、日本は健康診断や医療の体制が整っていて、病気になったときに医療を受けることもできるが、アフリカなどの途上国では必要なときに医療が受けられないこともあり、ワクチンの予防接種は子どもの健康と命を守るための数少ない手段の一つだと痛感した。そのころは、Gavi の存在さえ知っている人は少なかったが、日本からGaviへの拠出金を増やすために動き始めた。「世界保健機関(WHO)や二国間援助もある中で、Gaviへの拠出増加は必要か」という反応が国会内でも省庁からもあった。しかし、理解が広がるにつれ、安全なワクチンを大量に購入し、必要とされる途上国へ供給するGaviへのわが国の貢献は高まった。

 

アワ・マリ・コルセック セネガル国務大臣を迎えて開催された、グローバルヘルスと人間の安全保障運営委 員会で発言する古屋氏(右)=2022年9月

コロナでの取り組みに続けて 

 コロナ禍で、COVAXを通じたコロナワクチンの支援ができた一方、対策の強化ができなったこともある。その一つが、エイズ・結核・マラリアの3大感染症への対策だ。しかし、2022年9月、政府は、3大感染症への対策に取り組む基金「グローバルファンド」へ今後3年間で最大10億ドル余りを拠出すると表明した。これは大変大きな額であり、今後の活動も重要だ。 日本が貢献していくべき課題としては、リンパ系フィラリア症、シャーガス病、デング熱などの「顧みられない熱帯病」(Neglected Tropical Diseases、NTDs)に対する研究開発、新薬開発への支援もある。NTDsは深刻な問題だが、国会議員の認知度も高くはない。しかし、政治家が「顧みられない」と声を上げることで、顧みられるようになり、政策としての優先順位も上がっていくはずだ。 

 3大感染症やNTDsに関する研究開発については、日本政府や日本の製薬企業、ビル& メリンダ・ゲイツ財団、国連開発計画(UNDP)が参画する官民パートナーシップ「グローバルヘルス技術振興基金」(GHIT Fund)もあり、こうした機関との連携もさらに強化していくべきだ。

 

世界との関わりが日本の利益に

 3大感染症やNTDsの医薬品開発や製品供給に関わることは、日本企業にとっても非常に重要だ。国際協力を通じて、現地が真に求めているものを知り、それを求めている一人ひとりにどのように届けるかという「ラストワンマイル」を考えることによって、知見が積み上がっていく。国際社会にもまれることがなければ、アフリカなどと歴史的な関係の長い欧州の企業などに対抗することはできない。

 現在、Gavi が扱っているワクチンの中に、日本企業が開発・製造したものはない。国際機関や世界の企業と連携していくことで、日本の企業が得られる恩恵もある。世界で必要とされるNTDsの新薬などを日本で開発すれば、拠出金を出すだけではなく、日本発の医薬品が調達・活用されることにもなる。 また、感染症が流行し、ワクチンが必要になれば、どこの国も自分の国を優先する。安全保障の観点からも、新薬ベンチャーを含め、研究開発力をつけていかなくてはいけない。

 

保健ODAの倍増も提言

 政府開発援助(ODA)では、どうしてもインフラやエネルギーなどの分野が中心になりがちだが、保健医療など人道に関わる分野は、日本がより力を入れて取り組むべき分野だ。 

 こうした考えから、2019年に「保健分野のODA のあり方を考える特別委員会」(幹事組織=日本国際交流センター)のメンバーとなり、翌年、司令塔機能の強化やグローバルヘルス分野の官民の資金量の倍増などを柱とする提言をまとめる議論にも加わった。ODA総額に占める保健分野の支出の割合は現在5%程度だが、この割合も倍増すべきだ。 

 世界の保健医療への日本の貢献については、反対する人もいないはずで、改定される国際開発大綱にも明記すべきだ。コロナ禍で各国は、感染症が世界にどれほど大きな影響を与えるかを知った。G7サミット(主要国首脳会議)では、保健相の会合だけではなく、これまで経済や安全保障が中心議題だった本会合でも保健医療のテーマをとりあげてほしい。そのために日本のリーダーシップを発揮すべきだ。 

 インドネシア・バリ島を視察した際、日本のODAでつくられた病院を訪れた。看護や医療など、日本のノウハウや支援が生きていること、それが伝えられていることを実感した。「これは日本の支援で立ち上げられた病院だ」ということを、相手国の国民が感じてくれるのは非常に大事なことであり、日本の存在感を高めるために役立つだろう。

※内容は2023年4月時点のものです

本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2023年5月号』に掲載されています。