現地日系企業から見たアジア的R/Dの行くえ

ガジャマダ大学の実用型研究
11月21日から4日間、日本政府のODAで支援しているSEED-Net(ASEAN工学系高等教育ネットワーク)の有識者会議の一員としてタイのバンコクを訪ね、モンクット王工科大学、チュラロンコン大学、泰日工業大学などで意見交換する一方で、ジェトロ・バンコクセンター、在タイ日本人商工会議所などを訪問して、実業界から見た日系企業の経営戦略などを聞きました。

私はASEANの「共同研究」に関心をもっているものですから、SEED-Net事業における「共同研究」に耳を傾けました。4年前にインドネシア中部ジャワのガジャマダ大学工学部の実験室を訪ねると、学生、研究者たちは異口同音に「実用型研究」を目指しているといいます。その意味で、「基礎的研究」は避けているようでした。それは研究費が欠乏しているからです。出来る限り売れる実用型研究でないと、研究を続けられないからだといいます。

タイの学術型研究
しかし、タイの日系企業にいわせると、概してタイの一流大学の研究を見ていると、研究論文を何本書くとか、という学術的傾向が強く、決して実用型研究とはいえない所があるといいます。
そこで、「日系企業はタイをR/Dの海外基地にしているようですが」と聞くと、日本企業には二つのR/Dの道があるという。一つはより高度なR/Dで、これはやはり日本がベースになる。二つは現地生産において現地適応型レベルのR/Dにとどめているという。したがって、現地型R/Dでは学術志向の研究者タイプの人材は求めないといいます。

タイの「近代化病」?
しかし、バンコクのトヨタ・テクニカルセンターでは将来計画として、一つの新しい自動車のデザイン、設計、生産までを手掛けたいと述べていましたね。車のデザインなどは、学生でもコンピュータを駆使して立派に描けるものの、問題は技術的蓄積を要するエンジニアリング部門の理解が不足しているといいます。油まみれでエンジン部分を研究テストするという、根気を必要とする現場型研究を敬遠しがちな学生気質にも、一つのR/Dという切口からの批判が向けられていましたね。
タイでも経済が発展してくると、現場を避ける気風が若者に広がっているようにも見えました。こうした傾向はすでに日本にもあります。ある意味で、これを“近代化病”というんでしょうかね。
一方、ASEAN各国の一流大学では、欧米志向に傾斜して学問的上昇気流が強く、自国の産業化政策にどう対応すればよいのか、人造りという面で一つの選択を迫られていると思います。