新しい「ノーブレス・オブリージュ」問われる社会指導層の役割

ローマ帝国1000年の礎
日本財団会長の笹川陽平さんのブログを読むのを楽しみにしている一人ですが、7月26日ブログの「イートン校とノーブレス・オブリージュ」の文脈は、私の問題意識と同じでした。
 イートン校は1440年、ヘンリー6世により70人の貧しい少年たちに無料で学問を施すために設立されましたが、現在は貴族などの上流階級や裕福なアッパー・ミドル階級の子弟が入学を希望する学校として世界的に有名だといわれています。笹川さんによると、学校の正面入り口に、英国が関わった戦争でノーブレス・オブリージュを実践して散った卒業生の名前が並んでいるといいます。

 さて、ノーブレス・オブリージュとは何でしょうか。その名付け親はフランス政治家のガストン・ピエール・マルクで、1808年の頃です。フランス語のNoblesse(貴族)とObliger(義務を負わせる)の合成語で、その意味は「身分の高い者はそれに相応して果たさなければならない社会的責任と義務がある」ですが、これは西欧の道徳観を示したものです。
 「ローマ人の物語」で知られる作家の塩野七生さんは、1000年のローマ帝国を支えた根本には、ノーブレス・オブリージュがあったと述べています。つまり、知性でギリシャより劣り、体力ではケルト人やゲルマン人より劣り、経済力ではカルタゴ人より劣っていたローマ人があの巨大帝国を維持できたのは、「社会指導層」の役割だったと強調しています。

日本の戦後復興と戦中派のDNA
 笹川さんは最後にこう述べています。戦後の日本には政治家、官僚、経済人や知識人に、自称ノーブレス即ち選民と思っておられる方々が多数おられる。現在の国難は戦争だけではない。日本はあらゆる意味で衰退の兆候大であり、「ノーブレス・オブリージュ」を今ほど必要とする時はない。
 現在の日本を直視すると、私はローマ人が巨大帝国を維持できた原動力としての「社会指導層」の役割、つまりノーブレス・オブリージュが今の日本に必要だと叫びたい。かつて日本は「政治家が三流でも官僚が二流で、経済界が一流だから何とか維持できる」と言われたものだが、今では政治家のみならず官僚も経済界も三流だと言われ、一種の絶望感が漂っています。
 なぜ、こうなったのでしょうかね。今、日本は深刻な世代交代期に入っていると思うんです。いくら寿命が延びたからといっても、戦前からの重鎮は政界、官界、経済界、学界を見渡しても、すでに人生を終えています。彼らは戦後の荒廃した日本の復興、再建に特別の思いをもって激闘してきました。
特別な思いとは(1)日本という国を豊かで平和な国にすることが、太平洋戦争で命を落とした先輩、仲間たちへの鎮魂になるという思い、(2)戦前のような軍事力でなく経済力で立国するという思い、(3)戦前、国際連盟を脱退して世界的に孤立するようなことを徹底的に回避して、世界の孤児になってはならないという思い、などではないでしょうか。
 戦後復興―経済成長を実現した時代の背景には、戦中派のノーブレス・オブリージュが躍動していたのです。  
     
(2010年8月17日)