【国会議員の目】参議院議員 立憲民主党 石橋通宏氏

コロナ禍の今こそ国際連帯税の導入を

NGO/NPOとの連携を強化するODA改革も

参議院議員 立憲民主党 石橋通宏(いしばし・みちひろ)氏

1965年生まれ。中央大学法学部を卒業後、全国電気通信労働組合(全電通/現・NTT労働組合)に入職。2001年より国際労働機関(ILO)の国際研修センター(イタリア・トリノ)や東南アジア太平洋諸島地域担当サブ地域事務所(フィリピン)で労働者活動専門官として勤務した後、2010年に参議院議員に初当選。現在2期目。「ILO活動推進議員連盟」「国際連帯税の創設を求める議員連盟」などの事務局長を務める

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※本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2020年12月号』の掲載記事です
※当コーナーでは、国際協力に詳しい国会議員が独自の視点から日本の国際協力の在り方を論じます。

「労働」から国際協力に関わる

―議員になる前は国際労働機関(ILO)などでキャリアを積んでいますが、国際協力にはどのように関わってきたのでしょうか。

 1992年に全国電気通信労働組合(全電通/現・NTT労働組合)に入職してからおよそ20年間、「労働」の側面から国際協力に関わってきた。2001年にはイタリア・トリノにある国際労働機関(ILO)の国際研修センターで働く機会に恵まれ、アジア太平洋の労働者や労働組合のリーダー達への教育訓練の企画立案・実施運営に携わった。その後、06~09年にはILOの労働者活動担当上級専門官としてフィリピン・マニラに赴き、東南アジアや太平洋地域11カ国における労働組合育成支援や労働法制・社会保障制度に関する助言などの活動に従事した。

プロサバンナ事業を教訓にせよ

―1期目では政府開発援助等に関する特別委員会(ODA特別委員会)に所属し、モザンビークにおける大型農業開発事業(プロサバンナ事業)を間近で見てきました。今年の夏に“終了”した同事業をどう評価していますか。

 政府開発援助(ODA)というのは、日本国民から支援を必要としている諸外国の国民への支援であり、暮らしを豊かにしていくためのパートナーシップに基づく両国国民間の協力であるべきだ。その評価基準からプロサバンナ事業を見た時に、残念ながら現地住民の暮らしを豊かにする協力ではなかったと考えざるを得ない。

 接点を持ったきっかけは、2013年にODA特別委員会で企画・実施されたモザンビークの視察であった。出発前に現地の小農民代表が訪日して学習会が開催され、私も参加して実情を伺ったところ、数々の問題点を共有してくれた。現地でも当事者の方々と対話できたが、「これは事業の在り方、進め方に問題がある」と認識せざるを得なかった。以来、議員という立場から事業の改善に向けた働き掛けを行ってきた。

 本事業を振り返ると、外務省と国際協力機構(JICA)は事業の目標設定と現地へのアプローチを間違えたのだと思う。本来は「小農民が農業で十分かつ安定した収入を得ること」や「国内に必要な食料を供給し、飢餓を撲滅すること」を目標にすべきだった。ところがこの事業は、国際的な価格動向にも左右される輸出換金作物を生産し、先進国に大量供給するような農業を展開するものであった。少なくとも小農民たちはそう受け止め、「これは自分たちのための事業ではない」と判断したのだ。彼らは、大資本による土地収奪の問題も心配していたが、そもそも当事者である小農民たちにはほとんど事業の情報が共有されずに事が進められていた。

 実は当初、小農民の多くは事業の中止ではなく改善を訴えていた。そこで私は13年以降、何度もODA特別委員会や予算委員会でJICAの田中明彦理事長や岸田文雄外務大臣(いずれも当時)に「一旦立ち止まって、ボタンの掛け違いを直し、当事者の皆さんを交えて真にモザンビーク国民のためになる事業にして欲しい」と訴えたが、残念ながら最後まで、抜本的な対応はなされなかった。

 むしろ外務省やJICAは事業をそのまま強行しようとした。現地からは賛成派だけを集めた集会が開催されたこと、そして慎重・反対派を時には力で抑えつけるような事案までもが報告されてきた。しかし、そんなやり方が長続きするはずはない。モザンビーク国内だけでなく、国際的にも反対の声が高まり、遂に20年夏に事実上の中断へと追い込まれた。

 外務省とJICAは、この失敗を教訓として受け止めるべきだ。裨益国の人々の生活を豊かにすることを目指すのがわが国のODAであり、最初からモザンビーク政府としっかり話をして、小農民など当事者の方々をプランニングの段階からパートナーとして参画させ、一緒に事業をつくり、運営するべきだった。今一度、「何故、当初の計画通りに進まなかったのか」「何故、断念に追い込まれたのか」を真摯に振り返って、今後の開発協力に生かしていくべきだ。そうでなければ、同じ失敗を今後も繰り返すことになる。

 資金確保へ国際的な体制作りを

―現在は「国際連帯税の創設を求める議員連盟」の事務局長を務めていますが、導入に向けた国内外の議論の現状はどうですか。

 国際連帯税は、地球規模的な課題に国際社会が協力して対処するための開発資金を調達する手段として考案された一種のグローバル・タックスだ。海外では、航空券代金にごく少額の税を上乗せして、得られた税収をエイズや結核などの医薬品の共同購入に充てる航空券連帯税がすでに世界11カ国で導入されている。このほか、国際金融市場において、投機的な資金を抑制するためのトービン税的な金融取引税の導入も欧州を中心に議論されている。私はかねてからトービン税の導入支持派だったので、「このような国際連帯のための税を日本でも導入すべきだ」と考えて、初当選の直後から議員連盟に加入して活動している。

 かつての民主党政権下では、国際連帯税の導入が税制改正大綱に毎年記述されて、導入機運が高まっていた。2012年からは議員連盟の事務局長として、市民グループの方々とも連携協力しながら、外務省をはじめとする関係各所に対し導入に向けた働き掛けを行ってきた。ただ残念ながら、自公連立政権が誕生してからは議論が停滞して、税制改正大綱からも文言が消え、いまだ実現には至っていない。実は、河野太郎前外務大臣は国際連帯税の導入に非常に積極的で、導入機運が相当に高まっていたが、こちらも外務大臣が替わった途端に機運が萎んでしまった。

 しかし、今こそ世界各国で国際連帯税の導入を議論して、推進すべき時ではないか。持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けては、相当の資金が必要となるが、現在、日本を含めて世界的にODAの拠出が伸び悩んでいる。加えて、今年、世界を襲った新型コロナウイルス感染症の対策も喫緊の課題で、安全なワクチンの開発やその世界的な供給確保などで相当な額の資金が必要になる。問題となっている気候変動への対策なども含め、こうした地球規模課題に対応するためには、継続的かつ安定的に資金を確保する国際的な体制を構築するべきではないか。超党派の議員連盟としても、ぜひ早急に国際連帯税を導入するよう、政府による政治決断を強く促していきたい。

―日本のODAを含む開発協力が進むべき方向とは。

 日本政府は、欧州諸国のようにNGO/NPOを中心とした市民社会のネットワークやノウハウを取り入れて、一緒に開発協力を展開していくべきではないか。民主党政権時代に岡田克也外務大臣の下で行われたODA改革では、NGO/NPOとの定期的な協議が強化され、NGO連携無償資金協力の予算も増額された。しかし、安倍政権下での開発協力大綱の見直しでは、国益を前面に出したODAに変わってしまい、NGO/NPOとの連携についても時計の針が元に戻ってしまったような印象を受けている。日本のNGO/NPOのほとんどが、欧米諸国のそれと比べると財政基盤が脆弱で、安定的な事業の実施や、人材の確保・育成にも長年苦しんでいる。NGO/NPOが専門性を養い、人材育成やネットワークを構築して、その力を一層発揮していただけるように、政府はもっとNGO/NPOをパートナーとしてODA事業への参画を求め、資金供与や人材交流などの支援を積極的に行うといったODA改革をするべきだ。

本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2020年12月号』に掲載されています