【国会議員の目】参議院議員 国民民主党 大塚 耕平氏

ODAと国益と情報収集力
激変する環境踏まえ「棚卸し」の議論

参議院議員 国民民主党 大塚 耕平氏
1959年愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒、同大学院博士課程修了。日本銀行勤務の後、2001年、参議院議員初当選(現在4期目)。内閣府副大臣、厚労副大臣、民進党代表、国民民主党共同代表などを歴任。イラク人道復興支援活動等及び武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会理事、政府開発援助等に関する特別委員会筆頭理事も務めた。現在は国民民主党代表代行兼政務調査会長。

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本記事は『月刊 国際開発ジャーナル2022年12月号』に掲載されています。

 

 日本銀行勤務時代に、カザフスタンなど中央アジアの国々への決済システム導入支援に関わった。ところが数年後、カザフスタンに提供した機材はほこりをかぶり、有効に活用されていないことが判明した。国際協力においては、目的もさることながら、その後のフォローやアフターケアが非常に重要だと実感した。
 2002年、フィリピンのマニラで政府開発援助(ODA)に関する国際会議に議員代表の1人として出席した。当時のマニラは、会議会場のホテルや政府関係機関の周囲にはスラム街が広がっていた。高級な背広や民族衣装に身を包み、いかにも富豪然とした上院議員が「フィリピンにはお金がない。ODAが必要だ」と訴えていたことには違和感を覚えた。同国では少数の富豪家族が権益を独占していたので、私は「国内の自助努力が不十分な一方、ODAに過大な期待を寄せるのは説得力に欠けます」と率直に申し上げた。
 カザフスタンやフィリピンの例から分かるように、国際支援には十分なフォローアップや被支援国の自助努力が重要だ。
 2008年、参議院の政府開発援助等に関する特別委員会で「ODAの増額の必要性」「援助理念、援助戦略、地域戦略方針の必要性」などを盛り込んだ決議※をまとめ、筆頭理事として福田康夫首相(当時)に手交した。当時、日本のODA予算が年々縮小する中で、中国は援助額を増やし、存在感を高めていた。日本のODA規模の反転増額を求め、数年経ってようやく増加に転じた。一方、中国へのODAは終了すべきと訴え、2021年度に全事業が終了した。
 国際支援を通じて世界の均衡ある発展や人々の生活向上を図る意義は変わらないが、国際情勢や財政事情の変化を鑑み、ODA決定の際には従来以上に日本の国益を考える必要がある。留意すべきは次の3点。
 1)日本の食料やエネルギー確保につながり、しかも相手国にも喜ばれるようなODAを進めること。
 2)相手国における日本人のプレゼンス。常駐日本人がわずかな国では、事業のフォローアップは困難。
 3)ODAを有効活用するために情報収集力を高めること。
 一例はCOVAXだ。新型コロナウイルス感染症ワクチンの供給ファシリティとして日本も多額の支援をしているが、COVAXは開発・製造支援も行っている。しかし、開発・製造支援を受けるのは欧米製薬会社ばかりだ。日本政府は開発・製造支援の仕組みを十分に把握していなかったので、外務省や厚生労働省に働き掛け、最近になってようやく日系企業も支援を受けるようになった。日本はいつまでも気前の良いスポンサーではいられない。利用可能な国際的ファシリティは使うべきであり、そのための情報収集力を高めることが必要だ。
 今や日本はアジアで唯一の先進国ではない。日本の国際支援、ODAをどうするのか、「棚卸し」の議論が必要だ。今年度、開発協力大綱の見直しが予定されている。国際支援の在り方は、防衛3文書見直しや経済安全保障法などとも密接に関係している。ODAを「博愛的」「人道的」視点のみから考えるのではなく、国益や国家戦略と有機的に関連付けることが必要だ。

※「G8北海道洞爺湖サミット及び第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)に向けた我が国の国際援助の在り方等に関する決議」