Vol.6 インドで自分を見つめなおした3ヶ月間

イギリスに本部があるプロジェクトアブロードを通じてインドでボランティアを経験した
上木香奈さんからのレポートです。

前々から国際協力に興味があり、ビッグスケールで世界を跨ぐ仕事がしたいと思っていた私はいままでのキャリアにストップをかけ、インドへ3か月の旅に出ました。

いままでやりたかった事でまだ実現していないことをリストアップし、分析したところ、「書く仕事がしたい」「途上国でボランティアする経験が欲しい」という結論になりました。子供のころになりたかったのは小説家。でも文章能力や才能もないし、ライターとして食べていけるかも不安、などと色々と口実を見つけてはチャレンジせずに毎年同じことを書いている自分に気がついたのです。ただ、経験もないのにお金をもらってやるのは到底無理な話しだろうと思った私はグーグルで「書く仕事」「海外」「ボランティア」などのキーワードをもとにグーグル検索しました。そこで出会ったのがプロジェクトアブロードのジャーナリズムプロジェクトでした。このプログラムは本当に最適で、夢のようなものでした。派遣先の雑誌社がプロジェクトアブロードスポンサーであるため、わたしのような未経験でも参加できますし、写真、取材、記事作成、編集、デザインから出版までの一連の流れに携わることができます。またライターという職業上、南インドを旅するように見ることができましたので。

活動先は南インドのシバカシという産業街でした。空港から車で30分くらいの町ではと勝手ながら想像していた私はその頃まだインドの大陸の広大さに気がついていませんでした。到着時、シバカシがそこからさらに車で6時間の場所と聞き、それまでにも日本から12時間近くかけてきた私は失神しそうになりました。

ジャーナリズムのプロジェクトでは、世界各地から来た方が大勢いました。ドイツ、イタリア、フランス、英国、オランダにドーハまで!それぞれレベルの違う仲間でも、願望は同じだったため意気投合しました。みなさんインドのような発展途上国は初めてだったので条件は一緒です。助け合いながら楽しくジャーナリズムのプロジェクトを進めました。南インドは道がでこぼこで整備されていないのでバスに乗るだけでもジェットコースター気分です。また国が違えばルールも違うので日本であれば明らかに違反となるようなリクソーカー(三輪自動車)に8人乗りというのもしょっちゅうでした。そのような交通手段を使い、人里離れたビレッジに住む職人を取材しに行ったりしました。おかげで宗教や歴史や伝統をじっくり学べるいい機会が持てました。

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一番印象に残ったのはお見合い結婚の二人を取材し、その後彼らの結婚式に招待されたことです。実はこの記事のアイディアを出したのも私。インドでは結婚の8割を占めるお見合い結婚というのに非常に興味を持ち、取材して日本の事情とかと比べたら面白いかなーと思ったのでした。だってインドではまず到着して一番聞かれる質問が「結婚しているの?」「なんでしないの。」とかなんですよー!失礼ねと憤慨していても仕方ありません。リクソーカーの運転手さんも店の店員も道沿いにあるチャイ屋の店員だって、それに現地スタッフも平気で聞きますから。まぁそれだけインド人にとって結婚は一大事なのです。

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それ以外の活動としては月に一度、大学や学校に赴き学生との交流会の機会がありました。食糧難についてのレクチャーを行ったり、それぞれ来た国の紹介をしたりしました。また我々のシバカシタイムズ(プロジェクトアブロードの雑誌の名前です)を題材に彼らに色々と情報発信することもできました。世界について、世界の問題について、自国と他国との違いや経済、食料危機などタイムリーな問題についてお互いにどう思うのか意見貢献したり。食糧危機については参りました。イタリア人の同僚が食糧危機問題の解決策について「肉の消費量を減らす」という発言をしたときです。するとある学生はこう言いました。「それは先進国が気をつけるべきことだろう。宗教的にも牛を食べない僕たちには当てはまらない。ましてや国民の大半が1ドル以下の生活をしているのに肉などの贅沢品を口にするわけがない。」と。これは一本やられたと少し赤くなっていました。こういう議論を通じて日頃当たり前で気がつかない面に目を向けられるようになったように思います。そしてまた、日本の良さも悪さも実感し、他国との様々な違いを基に色々と頭をつかって考える癖もできました。

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滞在先はプロジェクトアブロードと提携しているホストファミリー宅でした。私が滞在したのはサウンダラージュ一家。とてもハートが温かく笑顔の優しい家族でした。1か月過ぎた頃、食欲旺盛な私が食べられない日々が数日続きました。やはり丁度慣れてきた頃でまた7月というさらに暑い季節で(平均気温38度くらい?)体がばてたのが原因でした。それから毎日食べていたインド料理に飽きたというのもありますが。「やせちゃって・・・本当のお母さんが心配するね」とホストママが心配し、わたしの好きなお菓子とチャイを持ってきてくれたり、スープやお湯だけ持ってきてくれたり。本当の家族並みに親切な家でした。夜少しでも遅いとお父さんが玄関のところで座って待ってくれるし・・・笑顔でおかえりと迎えてくれたときには涙が出るくらい嬉しかったです、小さい頃に戻ったみたいに。

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部屋は3つあり、わたしの部屋にルームメイトがいるときもあればいないときもあり。みんなだいたい1か月単位で来る方が多いので、そのうち「新しくきた方を迎えて出るときに見送る」第2ホストママみたいになっている自分がいました!

夜や週末は他のボランティアの方と常に一緒だったので淋しくありませんでした。本を読んで論評しあったり、世界から集まる色々な方たちと互いの国の違いについて話したり。週末は本当にあちらこちらに行きました。タミルナードゥ州の北の方のチェンナイ・オーラルヴィル(旧フランス領)を訪れてフランスインド文化を楽しんだり、テケティ山頂付近で象に乗ってスパイスガーデンでスパイスを堪能したり(シナモンってまるかじりできるんですね!)、ボートに乗ってのんびりとした時間を過ごしました。ビーチにもよく行きました。シバカシは内陸地にあるのでどこに行くにもバスで長時間ドライブです。帰国する頃には8時間のバスと聞けば意外と早いわねと少し感覚がずれていたほどです。

日本に帰ってきてもサプライズの連続でした。ホストファミリーから長女の結婚式の招待状が届き、最後に書いた記事が載っている雑誌が送られてきたり。当分心はインドに置いたままにしようかなと思います。

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インドでの長期に渡る旅で学んだことは一言では表せませんが、生きる活力をもらい、何かを成し遂げる勇気や大切さに気づき、他国への理解は自国への理解にもつながるということが分かったことでしょうか。豊かな経験は豊かな心を育てると思います。単一民族国家として鎖国的になりがちな日本に比べて対照的に、様々な宗教や人種、言葉が混ざり、古いものと新しいものが混在している不思議な大陸インドでの経験は多くを学べます。心を洗い直したい時はすべてを飲み込んでくれるこの広大な土地でひと時を過ごすのも良いのではないでしょうか。