新興途上国による「途上国版DAC」出現か[2008.5.10]

[OECD開発援助委員会(DAC)解説]

目覚しいBRICsの台頭

 G8サミット開催前の4月5~6日に「開発大臣会議」が東京で開かれた。この会議には前回のドイツG8サミットでメリケル首相が主張したハイリゲンダム・プロセスとして、G8のほかに中国、インド、南アフリカ、ブラジル、メキシコ、いわゆるBRICsが参席した。4つの分野で行われた課題は次の通り。(1)エネルギー効率(省エネ)問題、(2)イノベーション、(3)投資、(4)開発問題(アフリカ開発を含む)など。

 これからは地球環境問題や開発問題を新興途上諸国のBRICsグループの参加なしには議論できない時代になるとみられている。そうしたなかで一番頭を痛めているのは、戦後、先進資本主義国をまとめて世界経済のリーダー役を務めたOECD(経済協力開発機構)だ。

 OECDは3つの委員会から成っている。①経済政策委員会、②貿易開発委員会、③開発援助委員会(DAC)。うちDACは目下、非OECDの援助国との協調に踏み込んでいる。言い換えれば、DACの援助ルールを無視して政策的援助を展開している非OECD国との対話を積極化しているのである。その代表格が中国だ。とくに中国のアフリカに対する資源戦略の一環としての大規模な経済援助が、これまでのDACベースの援助国による援助協調を乱すものとして、そのあり方を懸念している。こうした非OECDの援助がBRICs全般に広がると、戦後、営々と築いてきたDACによる世界的な援助秩序が崩壊しかねないからである。この問題は単にDACだけでなく、OECDのサバイバル問題にも及んでいる。

 現在のOECD加盟国は30カ国で、加盟資格は基本的に民主主義国という同質の集団で占められている。ところが、半世紀以上を経た現在、OECD加盟30カ国の世界のGNPに占める比率が年々下降し、かつての比率80%が今では60%へと減少している。今後はBRICsなどの躍進でさらにその比率は減るものと見込まれている。したがって、OECDはそのサバイバルをかけてBRICsをメンバーに取り込む必要に迫られている。これからは資源大国ロシア、イスラエル、チリ、エストニア、スロベニアなどにもメンバーに加盟してもらいたいとしている。

「途上国版DAC」の登場か

 こうなると民主主義国という同質の集団OECDという建前などは雲散霧消してくる。社会主義国の中国でも経済は自由主義ではないかといわんばかりに、最近は中国への接近を加速化させている模様だ。たとえば、中国、インド、南アフリカ、ブラジル、インドネシアなどを筆頭に関係強化を図っているという。メキシコはすでに加盟国である。しかし、加盟には入場料が必要となる。問題はその入場料が払えない国もあるので、OECDにとってはこれがまた頭痛の種だ。

 しかし、見通しは決して楽観できるものではないという。BRICsのうちインドは冷戦時代の非同盟の途上国として第3の道を歩んだ歴史をもっている。おそらくOECD先進援助国としてではなく、非OECDの途上国のままでの援助国として、独自の援助グループを結成する可能性も考えられている。つまり、新興途上国グループによる「途上国版DAC」を創設することも予想される。

 もし、ポスト京都議定書で温暖化ガスの最大排出国の中国、インド、ブラジル等との話し合いが失敗して二極分解すると、地球温暖化防止をめぐって2つのグループが話し合うという、かつての南北時代における77グループ交渉の再現になる恐れもある。OECD先進国が世界の経済発展のけん引車になるという時代はすでに置き去りになりつつある。G8グループがどこまで新興途上国の条件を満たせるか。これが今後のカギを握っているといっても過言ではない(国際協力推進協会主催による、前OECD大使・北島信一氏の帰国報告をもとに、本誌編集部が執筆した)。

『国際開発ジャーナル』2008年5月号掲載記事