「新しい日本のODA」マニフェストが問う大競争時代のODA像[2008.1.5]

四層構造を基本に外に開かれた“日本らしい援助”を

2007年10月、「新しい日本のODA」を語る会から、30項目の提言からなる“ODAマニフェスト”が発表された。これは、大幅な予算削減など、日本のODAの現状を憂いて各界から集まった120名を超える専門家らが1年間議論を重ね、その成果として取りまとめたもの。このマニフェストがめざす日本のODA像を、「語る会」幹事の小嶋雅彦氏(政策研究大学院大学教授・JICA客員専門員)および大野泉氏(政策研究大学院大学教授)らへのインタビューをもとに探ってみたい。

現状に対する危機感

今回、『「新しい日本のODA」マニフェスト―国際協力を変える30の提言』(以下、ODAマニフェスト)を発表した『「新しい日本のODA」を語る会』(以下、語る会)には、各界から総勢120名を超えるメンバー(政界17名、マスコミ11名、産業界5名、NGO13名、学界14名、官界28名、実施機関37名)が参加し、日本のODAが抱える課題を整理、めざすべき方向について議論を重ねてきた。この語る会に参加したメンバーは、おのおのが、長年、国際協力に関わってきた“プロ集団”であり、このなかには外務委大臣の諮問機関として設置された「国際協力に関する有識者会議」のメンバーも、複数名含まれている。これまで、ODAに関わる各界の専門家が一堂に会し議論するということが少なかったなかで、「語る会」がそれを提供した意義は大きい。また、会自体は何らの利益団体ではないということが、自由な議論を可能にした。

「語る会」に参加したメンバーの共通意識は、ODAの現状に対する危機感だ。今年はTICADⅣ、G8洞爺湖サミット、新JICA設立を控えた重要な年となる。しかしODA予算がこの10年で約40%も削減された結果、90年代には世界最大の援助国であった日本は、01年には米国に首位の座を譲ると、06年には、米、英に次ぐ3位へと後退、さらに07年実績では、ドイツ、フランスにも抜かれ、4位、5位へと転落することが予測されている。ODAマニフェストでは、その状況を「日本の存在感は急速に地盤沈下している」と分析、「日本のODAは、今、“崖っぷち”に立っている」と警鐘を鳴らしている。

三層構造からの脱却

今回発表されたODAマニフェストには、2つの基本メッセージが込められている。
1つは、「オールジャパンによる戦略と政策立案・実施体制を築く」というもので、この基本となるのが“四層構造”という考え方だ。これまで日本のODAは、第一層に「司令塔である海外経済協力会議」、第二層に「行政機関である関係省庁」、そして第三層に「実施機関であるJICA、JBIC」というコンテクストのなかで、政策が議論、実施されてきた。しかし最近では、途上国の持続的な発展のためには官民の連係が重要であり、“ODAは民間投資の呼び水”であるとの認識が広く共有されるようになった。また、開発援助の現場では、NGOや大学、企業のCSRなど、そのアクターも多様化している現在、「民間・国民」を第四層としてとらえ、“ODA(政府開発援助)”から、オールジャパン体制で取り組む“国際協力”へと認識を変化させていく必要があった。いわばマニフェストが基本姿勢として示す三層構造から四層構造への変革は、時代の要請だといえる。

もう1つは、「日本、途上国、国際援助社会という3つの場を軸に考える」ということ。先ほどの四層構造が日本国内を縦軸でとらえていたのに対し、これは、世界を横軸でとらえ日本の国際協力のあり方を検討しようというものだ。この3つの場に対し有効かつ理解される国際協力をめざし、日本がアジアで蓄積してきた経験、世界のドナー国や国際機関のノウハウ、途上国側のニーズなどをそれぞれ有機的に結びつけていくことは、地球環境問題への対応やアフリカ、メコンといった「地域」を単位とした協力を行っていく際には重要なファクターとなる。また、今後日本が世界の援助潮流をリードしていくためには、日本が発信する政策や援助理念というものが、この3つの場で理解されるようなものでなくてはならない。

続きは『国際開発ジャーナル』2008年1月号「IDJ REPORT」(P10-11)に掲載!