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【私のキャリアパス】“温かみのある数字”を追求

世界保健機関(WHO)
母子保健部研究チーム技官
吉田 幸代 さん

【吉田さんのキャリアパス】
24歳 南デンマーク大学大学院で
   公衆衛生の修士号取得
25歳 フィンランド国立公衆衛生学研究所で
   研究員として勤務
26歳 WHOにインターンとして勤務
29歳 WHOに正規職員として採用
32歳 仕事の傍ら、ロンドン大学の
   衛生熱帯医学大学院の
   博士課程に入学


(調査で訪れたコンゴ共和国の農村)

 

【博士課程で専門性を磨き直す】
 「現地調査からあがってきた統計データは、私にとって、住民一人一人の人生やデータ収集に携わった関係者の熱意が感じられる“温かみ”のある数字の集積です」。こう語るのは、世界保健機関(WHO)で疫学分析に携わる吉田幸代さんだ。

 吉田さんは、デンマークに留学していた時、ナイジェリアやネパール人の留学生たちから、現地には十分な医療施設がない上、アクセスも難しく、多くの子どもが亡くなっている現状を聞き「開発途上国の保健衛生の改善に貢献したい」と思った。さらに、大学院で疫学を学ぶ中で、「より多くの命を救うには、開発途上国がデータに基づいて保健政策を策定できるよう支援することが重要」と感じ、WHOの研究職を目指すようになった。

 その後、WHOでのインターンや短期職員などを経て、29歳で念願の正規職員の座を射止めた吉田さんだが、現場や大学で豊富な経験を積んだシニアの即戦力人材が多く活躍する職場の中で、自身の力不足を痛感することも多かったという。

 「もっと専門性を高めたい」と思った吉田さんは、2013年、英国の大学院の博士課程に入学した。仕事の傍ら、博士論文の執筆に取り組む忙しい毎日だが、「知的好奇心にあふれる大学院の仲間や、“子どもたちを助けたい”という使命感を共有する同僚、そして家族の存在が支えになっています」とほほ笑む。

【苦労の向こう側にある達成感】
 開発途上国での保健衛生状況調査には、多くの困難が伴う。例えば、2015年にコンゴ共和国のへき地でデータ管理の研修に携わった時には、事業予定地にたどり着くまで、古い国連専用のヘリコプターでジャングル上空を約4時間も飛ぶ必要があった。その後も、現地の保健関係者が遠くの農村を回り苦労の末に手に入れたデータをパソコンへ入力している最中に停電が起きてデータが失われるなど、多くの苦労があったという。

 それでも、「苦労を乗り越え得られた質の良いデータは、各国の保健行政の改善に貢献しています」と吉田さんは胸を張る。

 その一つの事例が、WHOのガイドライン改訂だ。かつて、WHOでは、生後2カ月までの乳児が敗血症などの細菌感染症にかかった場合、入院させて抗生物質を注射することを指針としていた。しかし、開発途上国ではさまざまな理由から入院できず、適切な治療を受けられないまま亡くなる乳児が多い。

 吉田さんの所属するWHO研究チームは2012年、ケニアやコンゴ共和国、ナイジェリアにおいて、敗血症などの細菌感染症にかかりながらも病院へ行けない乳児を対象に、こうした実態を研究した。その結果を受け、比較的症状の軽い生後一週間から2カ月の乳児の場合、入院なしで飲み薬を使い治療することがWHOの指針に取り入れられた。現在、コンゴ共和国とナイジェリアではこの新しい原則を政策に反映するためのプロジェクトが実施されている。

 世界では、今なお毎年590万人の子どもが5歳未満で亡くなっている。「温かい数字」を追求する吉田さんの挑戦は続く。

(出典:『国際開発ジャーナル』2017年2月号)

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