月別アーカイブ: 5月 2016

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【大学の国際化最前線】一橋大学 国際・公共政策大学院 アジア公共政策プログラム

アジアの官庁職員育成を通して海外ネットワークを拡大

hitotsubashi

【国際機関との人脈を生かす】

 往々にして世界の中でプレゼンスが高くないと言われる日本の大学。実際、「大学の世界ランキング」などを見ると、上位を独占するのは軒並み欧米の大学だ。そうした中、独自の戦略を展開し、地道かつ着実に海外での知名度を高め、ネットワークを広げているのが、一橋大学国際・公共政策大学院のアジア公共政策プログラム(APPP)だ。

 APPPは、アジアの財務関係省庁や中央銀行などに勤める若手職員たちを対象に、2000年に開講された実務家育成を目的とする修士プログラムである。1998年に同大学の学長に就任した石弘光氏が大学の行方を思い巡らせていた際、米国・ハーバード大学が国内外の財務関係省庁の職員を対象に実施している租税講座に着想を得て設立された。その後、かつて世界銀行でエコノミストとして活躍した経験を有するなど、国際開発に深い見識のある浅沼信爾教授(現客員教授)などの参画も得て議論を進めていく中で、アジアの財務関係省庁などで働く職員を対象に公共政策を教えるという同プログラムのコンセプトが固まっていった。

 その際、石氏らの念頭にあったのは、「海外展開に取り組んだ経験があまりない一橋大学が、いかにして海外でネットワークを構築・拡大できるか」という問題意識だったという。「やみくもに対象地域を広げても、将来につながる有効なネットワークは作れない」という考えから、学生の募集先は、まずアジアに絞ることにした。

 さらに、国際協力機構(JICA)や世界銀行、国際通貨基金(IMF)、アジア開発銀行(ADB)など、開発関係の機関に広い知己を持つ浅沼教授のネットワークを活用し、それらの機関の奨学金制度と連携して各国から学生を募集したという。現在、APPPのほぼ全ての学生は、そうした機関から奨学金を得て日本で学んでいる。

 APPPで学んだ修了生たちが帰国後、口コミで同プログラムのことを広めたり、アジア各国政府の幹部職員を対象に別途実施されている短期研修プログラムなどを通じ、同大の海外ネットワークは着実に広がり続けている。

【普遍性の高い知見を身に付ける】

 ここで現在学んでいる学生たちの出身は、多くがアセアンと中国だが、それ以外にも、南アジアや東アジア、中央アジアなど多様だ。授業は全て英語で行われ、専任の教授4人に対して学生は一学年の定員15人と、少人数教育を徹底。質の高い教育が売りだ。
 APPPのプログラムディレクターを務める有吉章教授は、「政府の仕組みや中央銀行の在り方は国によって大きく異なる。欧米諸国や日本の先進的な財政金融理論を表面的に学ぶだけでなく、その原理まできちんと理解しなければ、真に実践で役立つ知見にはならない」とした上で、「APPPでは、多様な国の学生が集まり、それぞれの国の状況について共有を図りながら議論を交わすため、普遍性の高い知見を身に付けることができる」と強調する。なお、将来的に実務につなげられるよう修士論文は、出身国における政策課題をテーマに執筆させているという。
 修了生の中には現在、財務関係省庁の局長などとして活躍している人もいるほか、国際協力関係の部署に就いて日本との調整業務に携わっている人もいるという。
 実は、2013年春、APPPに初めて日本の財務省職員が入学した。「今後は、日本人も含めたネットワーク強化が必要だと感じている」(有吉教授)という狙いからだ。今後、日本人学生も交えたAPPPのさらなる展開が注目される。

【Access】

〒186-8601 東京都国立市中2-1
一橋大学 東キャンパス マーキュリータワー3F
URL http://www.ipp.hit-u.ac.jp/

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【私のキャリアパス】政策と現場双方の視点から環境問題に挑む

(財)地球環境戦略研究機関(IGES)
自然資源管理グループ
適応チーム 特任研究員
釣田 いずみさん

【釣田さんのキャリアパス】

20歳 上智大学法学部地球環境法学科転部
22歳 上智大学比較文化学部比較文化学科卒業
23歳 Diving and Photo Shop Viamare(沖縄県)に勤務
24歳 青年海外協力隊でコロンビアへ
26歳 オーストラリアのクイーンズランド大学大学院へ
27歳 現職

【自然と共存するために】

 父親の仕事の都合で、2歳までをケニアで、5~9歳はザンビアで過ごしたという釣田いずみさん。日本の中学を卒業後アメリカの高校に進学し、その間ブラジルやカナダに滞在するなど自然豊かな環境で育ってきたため「自然とともにある生活が当たり前だった」と振り返る。
 
 しかし、高校の授業で地球が直面している環境問題の深刻さを知り、「何とかしたい」と上智大学法学部の地球環境法学科に進んだ。釣田さんは同学科で、企業活動や生活様式をコントロールするための国内外のルール作りやリサイクル法など、環境問題を法的な視点から学び、法政策の重要性を知った。他方、温室効果ガス削減の世界的な枠組み「京都議定書」の目標達成を目指すのに、アメリカの不参加が問題になっていると聞いて「法政策は万能薬ではない」と気付く。そして別の角度から環境について考えたいと、社会学や文化人類学など人々の生活様式を多面的に学べる比較文化学部に転部した。

 また、在学中にダイビングサークルに入ったのを機に海への関心が高まり、環境NPOであるOWS(The Ocean Wildlife Society)の活動に参加する。OWSは研究者や地元のダイバーが協力してサンゴ礁に関する調査などを行っており、釣田さんもダイバーとして度々海にもぐった。海洋での調査を行う一方で、大人も子供も参加できる海洋環境教育の活動も行っている。その一環として釣田さんも展示会やワークショップなどにボランティアとして参加した。卒業後は沖縄のダイビングショップと環境コンサルタントを兼業しながら、人間の活動が海に及ぼす影響を直に体験しつつ海への知識をさらに深めた。
 
 その後、元青年海外協力隊員だった両親の影響もあって、隊員としてコロンビアへ。観光都市カルタヘナの沖合にあるロサリオ・サンベルナルド珊瑚海洋国立公園に配属され、レンジャーとして現地スタッフの教育や地域の人々への環境教育活動などを行った。またコロンビアの海の実態を調査するために、ダイバーとして度々海にもぐった。海洋での調査手法を学びながら、サンゴの白化など地球の気候が変化しているのを目の当たりにした。2年間の派遣期間を経て、学習意欲にかられた釣田さんは、オーストラリアの名門校クイーンズランド大学大学院環境マネジメント学研究科で保全生物学の修士課程を取得した。

【「適応策」をアジアで展開】

 修了後の進路に関して、引き続き「環境関連の仕事に就きたい」と考えていた釣田さんは、ホームページに掲載されていた(財)地球環境戦略研究機関(IGES)の募集広告を見つけて応募し、採用が決まった。
 
 「IGESで働く職員はアジアや欧米の出身者も多く、インターナショナルな環境」と話す釣田さん。他方、長年海外にいたからこそ日本の良さを実感し、日本で働くことへのこだわりもあった。
 
 現在、4月に設立された自然資源管理グループ適応チームの特任研究員として、気候変動の適応策の研究を行っている。 具体的には、インド、ネパール、バングラデシュをまたがるガンジス川流域の農業や水分野の持続可能性・脆弱性の影響評価指標の開発、アジア地域のネットワークを強化するなどの「適応策」を推進。「環境の仕事はすぐに成果が見られず、もどかしく感じることもあるけれど、好きなことを仕事にできている」と前向きだ。政策と現場双方の視点を理解している釣田さんにこそ成し遂げられる仕事がある。

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【私のキャリアパス】現場経験が育み続ける平和構築キャリア

Junior Professional Officer(JPO)
UNHCRイラン事務所 配属
(Associate Programme Officer)
古本 秀彦さん

【古本さんのキャリアパス】

25歳 大学卒業後、イギリス・サセックス大学大学院
   現代紛争平和学へ留学
26歳 日本紛争予防センター
27歳 国際協力機構(JICA)ジュニア専門員(平和構築)
30歳 広島平和構築人材育成センター
   プロジェクト・コーディネーター
32歳 JICAシエラレオネ事務所 地方開発調査団員
32歳 (株)オリエンタルコンサルタンツ 平和構築担当
33歳 UNHCRイラン事務所

【難民のたくましさに接して】

 「難民の人々との出会いが人生を大きく変えました」。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が停戦を迎えて間もない1996年、大学1年生だった古本秀彦さんはクロアチア難民キャンプでのボランティア活動に参加した。文化交流などを行う中、難民キャンプの少年や若者たちから着の身着のままで紛争から逃れてきた話や、紛争下の生活の話を聞く。「彼らは辛いはずの話を冗談に変えて笑い飛ばしていました。人はなんてたくましくなれるのだと驚き、逆に元気をもらいました」。以来旧ユーゴスラビア地域の魅力にとりつかれ、その時の感動と衝撃が古本さんを国際協力の世界へ突き動かしたという。

 平和構築の分野で多様な経験を積み重ねてきた古本さん。大学では民族紛争を学び、国際協力の仕事に就くには修士号は欠かせないとイギリスの大学院に進学。専門性を高め英語習得にも打ち込んだ。

 大学院修了後の2002年からは、以前研修コースを受講したことのあった日本紛争予防センター(JCCP)でスリランカの地雷除去事業の立ち上げやカンボジアの小型武器回収事業などに従事。JCCPでの勤務の後、国際協力機構(JICA)ジュニア専門員としてアフガニスタン平和構築支援のレビュー業務やウガンダ北部地域の復興支援などに取り組む。07年からは広島平和構築人材育成センター(HPC)で平和構築人材育成事業の立ち上げと実施に関わり、その頃国際公務員への登竜門であるJPOに合格。派遣先が決定されるまでの間、オリエンタルコンサルタンツで人間の安全保障基金の評価業務などに携わり、2010年2月よりUNHCRイラン事務所に配属された。

【平和構築の援助協調を促進】

多様な仕事を通じて多くのことを学んできたという古本さん。最も影響を受けた仕事として、06年にかかわった北部ウガンダ復興支援をあげる。「当時は紛争がちょうど終息したところで、安全性の問題から現場に入ることが叶わない中、どのような支援が可能か、援助の形を様々な角度から柔軟に考えられるようになりました」。また当時、北部ウガンダ支援は国際的に大きな盛り上がりを見せており、各国政府、国連、NGOが活発な連携を展開。「復興支援の援助協調枠組みに参加し、そのインパクトを体感する貴重な経験を得ました」と強調する。

 また「04年のJICAアフガニスタン平和構築支援のレビュー業務では、大統領選挙を控え政情が不安定となる中で、現地調査を延期すべきかどうか職場で議論が起きていました。その時に上司が言った“先のことなど分からない。平和構築という仕事は動ける時に速やかに動くもの”という言葉は常に心に留めています」。

 現在勤務するUNHCRのテヘラン事務所では、イランでのUNHCR支援全体の方針策定や全案件の管理などに取り組む。100万人以上の難民を抱える同国で、近年UNHCRイラン事務所は難民の帰還支援は継続しつつも難民の生計向上を通じた自立支援を重視。こうした新しい流れに関われるのも大きなやりがいと話す。

 今後の目標は、「難民の多様なニーズに的確かつ迅速に対応できる力を身に付け、難民と地域住民の共生を念頭に置いた支援に携わりたいです」と話す。さらに長期的には、多様な援助アクターの政策枠組みを理解した上で援助協調を具現化し、紛争の影響を受けた地域、人々に対する総合的な支援を形成できるような人材になることを目標としている。現場経験を積み重ねながら自分にしかできないキャリア像を形成していく古本さん。平和構築の援助協調促進という新たな仕事に挑み続ける。

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【大学の国際化最前線】立教大学大学院 異文化コミュニケーション研究科

「人と人」「人と自然」の関係を問い直す

rikkyoworkshop
(小笠原諸島でのリサーチ・ワークショップ)

【持続可能な未来を追求】

 「異文化コミュニケーション」と「環境」。一見関係のないように思われる2つの学問分野を同じ専攻内に配置し、持続可能な未来へ向けた研究を行っているのが、立教大学大学院の異文化コミュニケーション研究科・異文化コミュニケ―ション専攻だ。
 
 2002年に設立された同専攻には、「異文化コミュニケーション」「言語コミュニケーション」「通訳翻訳コミュニケーション」といった、主に人間同士の関係におけるコミュニケーションを研究する分野に加え、「環境コミュニケーション」という研究領域が設けられている。
 
 同専攻で環境教育/ESD(持続可能な開発のための教育)を教えている阿部治教授は、「この専攻では、持続可能な未来の実現に貢献する人材を育成することを目指している」とした上で、「そのためには、異なる文化を持つ者同士の共生が必要」だと指摘する。そして「それぞれの文化の背景には、それぞれの民族が築いてきた自然環境との独自の関係性がある。持続可能性を深いレベルで追求するためには、『人と人』や『人と自然』の関係が交わる部分を含め、コミュニケーションの問題を問い直す必要がある」と語る。

 同専攻では、毎春、全学生と教授が参加する合宿が開かれ、環境問題と異文化コミュニケーションの関係について議論を交わす。この合宿に加え、同専攻では、学生と教授が環境や言語、異文化理解などについて継続的に議論を交わす「異文化コミュニケーション研究」も全学生の必修科目となっている。例えば言語学を研究している学生のように、これまで環境問題に特段関心を持ったことがなく、最初は面食らった様子を見せることもある学生たちも、こうした議論の機会を通じて、コミュニケーションの本質への洞察が深めていくという。

【自然と人間社会の関係を丸ごと体感】

 加えて、こうした「人と人」「人と自然」の関係を直に体感できるのが、国内で実施されるリサーチ・ワークショップだ。
 同ワークショップは、小笠原諸島や沖縄、知床、対馬など、自然環境の豊かな場所で実施される。現地では、自然環境を視察しつつ、行政やNGOなどから地域における環境と開発の問題を学ぶが、その中には米軍基地や過
疎化、集落再生といった社会的問題も含まれるという。これは選択制の授業であるが、言語研究を専門とする学生も多く参加している。彼らの中には、これをきっかけに環境への関心を深め、外国人向け自然ガイドを目指すようになった学生もいるという。
 
 同専攻は社会人を主な対象とした大学院であり、平日夜間と土曜日に開講されるため、受講生も、教員やマスコミ関係者、環境コンサルタントなど多様な経験を持った人が集まってくる。そして、同研究科で学んだ後、学者の道に進む場合もあれば、国際NGOなどに転職する学生もいるという。

 阿部教授は「自然との共生を重視してきた日本の伝統文化は、世界の環境問題の解決にも役立つはず。今後は、そうした日本の強みを海外に発信できる人材の育成にも取り組みたい」と語っており、同専攻のさらなる挑戦が期待される。

【Access】

〒171-8501 東京都豊島区西池袋3-34-1
URL http://www.rikkyo.ac.jp/grad/i-c/