国際開発ジャーナル


2019.05.01

住民が目標達成に向けた戦略をデザインする ~SDGsのローカライズを促進する参加型評価

写真:幅広い世代が集まった、能登SDGsのワークショップ(筆者提供)


「持続可能な開発目標」(SDGs)の機運は、日本の自治体にも広まりつつある。採択から約3年半。なぜ今、自治体はSDGsに注目するのか。元市役所職員で自治体におけるSDGsの取り組みを推進する髙木超氏が現状と課題について語る。(SDGsと地方自治体・下)

役割整理し、変革につなげる

 前号では、総合計画に持続可能な開発目標(SDGs)の理念を反映した自治体などを紹介した。だが、どのような計画ならばSDGsの理念を反映したと言えるのだろうか。

 この疑問を解決する糸口となるのは、既存の総合計画で示す都市の将来像と戦略が「持続可能かどうか」を確認することである。つまりは、SDGsが目指す「貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにする」という将来像と、自治体の既存の計画で示されている将来像がきちんと結びついているか、検証することだ。

 次に考えるべきは、「SDGsを統合的に達成するために何が必要か」「自治体や住民が担う役割は何か」についてだ。例えば、SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」では海洋プラスチックごみが大きな課題となっている。だが、プラスチックごみの削減は、海に面した自治体の環境部門が海岸の清掃を行うだけで実現できるものではない。内陸の自治体も、使い捨てプラスチックの量自体を減らす方策を検討し、自治体や住民の役割について整理する必要がある。

 さらには、持続可能性を町にもたらす変革的な工夫を計画段階で施すことも必要だ。SDGsでは、資源を必要以上に消費し、“地球の限界を超えた世界”を変革する必要性も謳っているからだ。最終回となる今回は、こうした計画を住民参加型で描こうと動き出した、石川県珠洲市の「能登SDGsラボ」を紹介したい。

地域と経済繋ぐ能登SDGsラボ

 能登SDGsラボは、2018年10月にSDGs未来都市である珠洲市に開設されたSDGs推進の要となる産官学金(産官学+金融機関)のプラットフォームだ。

 珠洲市は高齢化率が約47%に達し、人口減少も深刻化している。特に20代の若者は、年齢別人口グラフの谷となっている。

 こうした状況に対応する取り組みの一つとして検討されているのが、珠洲市と金沢大学がこれまで運営してきた人材育成事業「能登里山里海マイスター育成プログラム」の拡充だ。このプログラムは、世界農業遺産にも指定されている豊かな能登の里山・里海と、地域住民との共生を目指す能登半島の将来を担う若手リーダーの育成を目指しているもので、卒業研究には里山・里海を活用した製品の開発なども行っている。

 能登SDGsラボは、こうした研究を産業につなげる取り組みを推進しており、地域と経済をつなぐ拠点と位置づけられている。能登SDGsラボ経済分野サブコーディネーターの宮崎駿氏は「開所当時は、まだSDGsという言葉自体、認知されていなかった。だが最近は、『自分なりにSDGsについて考えてみた』と話題を提供してくれる人が増えてきた」と語っている。

慶應義塾大学
政策メディア研究科 特任助教
高木 超 氏
「もっしーこと」を始める場所に

 この能登SDGsラボで、筆者は現在、取り組みの実施者と受益者が協働で評価を行う参加型評価の手法を用いて、ラボに関わる住民がSDGsを自分ごとと捉えながらSDGs達成に向けたアクションを起こすきっかけづくりを進めている。この活動には、ラボのコーディネーターを務める金沢大学特任助教の北村健二氏と、国連大学サステイナビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニットの事務局長を務める永井三岐子氏も参画している。

 その一環として昨年度、中学生から60代までの住民とともにワークショップを2回、実施した。ワークショップでは、目的と手段のつながりを論理的に構造化して示す「ロジック・モデル」を活用し、持続可能な珠洲市を目指すための戦略を検討した。

 参加者が作成したロジック・モデルでは、「人口減少」という問題を「地域の担い手となる若者の不足」という課題に落とし込み、「20代の若者が地域で新しいアイデアや、もっしーこと(能登の方言で「面白いこと」の意)を始められるような環境を整える」という目標を設定している。次に、この目標の達成度合いをどのような指標で判断するか検討したところ、「若者の起業に対する金融機関の融資件数」や「20代の人口増加率」といった提案が出た。他には、「北國新聞(地元メディア)での掲載回数」や「うわさになっている回数」といった提案も示されたが、こうした地域の文脈をくんだ指標は、外部者には容易に導き出すことができない価値がある。

 参加型評価の取り組みは、参加者からは「地域の変化を客観的な指標で捉えることの難しさを感じた」といった指摘があるように、容易に浸透が図れるものではない。だが、「2030年から逆算して考えると、理想と現実のギャップを目の当たりにして不安や焦燥感に駆られるが、参加者の『こうあってほしい』というポジティブな発想が集まることで、そのギャップを乗り越えられるような前向きさが生まれた」といった声も聞くことができた。また、「着実な成果を積み重ね、能登SDGsラボが地域で新しいアイデアやもっしーことを始められる場所に発展させたい」といった意見もある。筆者は、今回の取り組み全体を通じて、今後さらに幅広い関係者の参加を得ながら、こうした住民参加型の手法を展開することが、まちの持続可能性につながる手ごたえを得た。

既成概念に捉われない発想を

 SDGsは世界のさまざまな課題を集約し、17のゴールを設定している。そのため、必ずしも日本の状況に即したゴールやターゲットばかりではない。しかし、共通して言えることは、自分たちが暮らす地域も含めた世界中すべての地域を将来にわたり持続可能な状態にすることである。そのためには、目指す姿と実現に向けた戦略を幅広いステークホルダーと描くことが求められる。

 能登SDGsラボでの事例は、独自に指標を設定するなどSDGsのグローバルな枠組みからは飛び出している。しかし、本質的に目指すところはSDGsと同じ「持続可能性」である。具体的なアクションに制約のないSDGsでは、こうした既成概念にとらわれない事例が広がることも期待したい。

(おわり)

『国際開発ジャーナル』2019年5月号掲載
#SDGs #自治体 #石川県珠洲市

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