国際開発ジャーナル


2019.04.01

まちの未来を「共創」するパートナーシップの在り方 ~SDGsを反映した政策を実行するために

写真:ウオメ市の担当者と議論する鎌倉市の職員。SDGsを通じたパートナーシップは、国内に留まらない(鎌倉市提供)


「持続可能な開発目標」(SDGs)の機運は、日本の自治体にも広まりつつある。採択から約3年半。なぜ今、自治体はSDGsに注目するのか。元市役所職員で自治体におけるSDGsの取り組みを推進する髙木超氏が現状と課題について語る。(SDGsと地方自治体・中)

「SDGsウォッシュ」を恐れるな

 2018年7月、国連本部で持続可能な開発(SDGs)に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)が開かれた。HLPFでは各国が自分たちの取り組みを発表する「自発的国家レビュー」が行われるが、昨年はニューヨーク市が自治体として初めて自らの活動をまとめた「自発的都市レビュー」を報告した。もはや自治体も「SDGsとは無関係だ」とは言っていられない時代になっている。

 しかし、世界中の自治体が「どのように取り組めばいいのか」と暗中模索しているのが実情だ。そうした中で、自治体の足取りを重くさせているのが、SDGsの達成に明確な因果関係が見られないのに、あたかもSDGsの達成に資する取り組みであるかのように見せかけることを表す「SDGsウォッシュ」という言葉の浸透だ。自治体や企業の中には、市民(消費者)から自分たちの取り組みが「SDGsウォッシュだ」と指摘されることを恐れ、批判されないような施策の見せ方に苦心するような動きさえある。

 自治体は国民の税金を財源にしている以上、その使途を明確に説明する責任があることは言うまでもない。だが、SDGsウォッシュへの批判を過度に恐れたり、施策の見せ方で住民からの指摘をかわしたりするのは本末転倒だろう。大事なのは、行政だけでなく、市民など多様な利害関係者(ステークホルダー)とパートナーシップを組み、「まずはやってみる」ことだ。そして、実際の活動や施策を振り返り、分析し、改善していくことが、SDGsの達成につながっていくはずだ。

 そこで今回は、幅広いステークホルダーとパートナーシップを構築しながら取り組んでいる2つの自治体の事例を紹介したい。

積極的に対話を行う鎌倉市

 最初の事例は、2 0 1 8 年度「SDGs未来都市」の一つであり、同年度の「自治体SDGsモデル事業」の一つでもある、神奈川県鎌倉市だ。同市は、市の総合計画にSDGsの理念を反映しようとしている。SDGsという世界共通の物差しを導入することで、鎌倉市の世界における立ち位置を客観的に分析することがねらいだ。

 そのために、基本構想を頂点に、基本計画、実施計画の三層で構成される総合計画のうち、2020年から25年を計画期間とする「第3次鎌倉市総合計画第4期基本計画」を策定するにあたり、鎌倉市は2018年12月から19年2月に、ワークショップ形式の市民対話を4回にわたり開催した。10代から80代まで幅広い世代の市民が参加を得て、参加者がSDGsの達成期限である2030年に鎌倉市をどのようなまちにしたいかという理想像を描き、そこから逆算して今何をすべきか検討している。これは「バックキャスティング」と呼ばれるアプローチで、SDGsの特徴として注目されているものだ。

 このほか、鎌倉市は欧州連合(EU)が実施する国際都市間協力事業の一環としてスウェーデンのウメオ市に市職員を派遣し、SDGsの達成に向けた取り組みについて議論するなど、海外との連携にも積極的だ。世界でもSDGsの達成度が高いとされる北欧の取り組みを参考にしながら、今後は得た知見を組織内外で共有することも期待される。

 とはいえ、自治体の総合計画にSDGsの理念を反映させることは簡単ではない。現行の施策に17の目標をひも付けるだけでは、十分とは言えないからだ。SDGsの導入をジェンダー平等の視点を取り入れるきっかけにするなど、市や人々に変化をもたらす工夫が必要となる。併せて、SDGs達成に向けた活動のポジティブな側面だけを抽出するのではなく、その活動を行うことでトレードオフとして生じるネガティブな側面も明確にしながら、全体を俯瞰して最もバランスの取れた落としどころを探っていくことが求められる。

慶應義塾大学
政策メディア研究科 特任助教
高木 超 氏
ビジョンを共有する豊岡市

 自治体がSDGsを政策に反映する際に、重要な点がもう一つある。それを指摘していたのが、(株)博報堂でストラテジックプランニングディレクターを務める米満良平氏だ。米満氏は、環境省が2018年12月~19年2月に実施した、地域の環境課題を解決するSDGs人材の育成事業「SDGsローカル・アカデミー」に参加し、研修の一環として北海道余市町を訪れた。余市町の住民や他の参加者たちと学び合う中で、米満氏は「幅広いステークホルダーと協働するにはSDGsというグローバルな課題の上に、住民の共通価値であるビジョンをのせる必要があると感じた」と語っている。

 この視点は自治体の政策を形成する際にも非常に重要である。例えば、SDGsの文脈でも、陸地で環境問題が発生しているから「陸の豊かさも守ろう」という目標が存在している。しかし、課題解決を強調するだけでは具体的に何をすればいいのかイメージがしにくい。何に取り組むのかという共通のビジョンがなければ、関わるステークホルダーも特定の分野に偏ってしまい、サイロ化(縦割り)の打破というSDGsの特徴を活かすことができない。

 そこで紹介したいのが、2つ目の事例である兵庫県豊岡市である。同市は、世界的にも例のない人里でのコウノトリの野生復帰に成功したことで国内外に知られている。そんな同市は、環境問題という地域の課題の上に、「コウノトリも人間も共存できる自然豊かな環境をつくろう」というビジョンを掲げている。このビジョンの下、同市では、環境のために農薬に頼らない農法・技術体系を確立し、農薬を使わないことで高くなる生産コストを「米のブランド化」という形で付加価値にして販売価格を上げることで相殺し、海外の販路などを開拓して課題解決を試みている。ビジョンがあればこうした具体的な道筋が立てやすい。そして、環境分野の関係者だけでなく、経済分野の関係者、学術界、地域住民にとっても課題が「自分ごと」となり、ビジョンの達成に向けた協力関係が生まれる。

 次回は、住民とともに新たな一歩を踏み出そうとしている自治体の取り組みについて、さらに紹介していきたい。

(つづく)

『国際開発ジャーナル』2019年4月号掲載
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