国際開発ジャーナル


2020.03.01

日本財団 連載第31回 
ソーシャルイノベーションの明日 

写真:キルギス・ビシケクで行われた中央アジア地域会議でのプログラム運営ワークショップ

 

日本と中央アジアをつなぐ人材を育てる-事業間の連携通じてシナジーを生む

 

高まる日本と中央アジアの関係強化の必要性

 中央アジアと日本は地理的に離れているだけでなく、歴史的にもそれほど深い関わりがなかった。現代においても、両国の関係は悪いわけではないが強固というわけでもない。しかし、米日など大国のパワーバランスが少しずつ変化している近年のアジアにおいては、アジア諸国間で極力良好な相互関係を構築していく必要がある。日本と中央 アジア諸国の関係も同様に深化させていく必要があり、このため日本財団は、双方をつなぐ人材育成プログラムを実施している。このプログラムは、3つの目的を掲げている。一つ目が、中央アジアの発展と中央アジア・日本の関係強化に貢献できる人材の育成だ。二つ目は、同プログラムにより育成された人材を中心とした中央アジアと日本の地域間ネットワークの活性化である。そして三つ目は、形成されたネットワークを何世代にもわたり継続させることだ。これらの目的を達成するため、現在、中央アジアと筑波大学でそれぞれ実施している2つの事業がある。

 

10年で300人超の日本留学を支援

 中央アジアで実施している事業は2006年に開始された。現在は日本中央アジア友好協会(通称:JACAFA)によって実施されている。トルコの大学で学ぶ中央アジア諸国の学生を対象に日本財団が奨学金を供与するもので、事業開始から10年後には300人を超える優秀な若者が巣立った。彼らの約半数は卒業後、トルコから自国に戻り、企業や政府、大学、国際機関などで重要ポストに就いている。皆、母国や中央アジア地域全体の発展を支えようと意欲に燃えており、日本に対しても深い感謝と関心を抱いている。

 

社会活動の実施ノウハウも

 JACAFAはこれら卒業生の同窓会を活性化するためにさまざまな活動に取り組んでいる。その一つが、奨学金で学んだ卒業生を対象に、福祉分野などの社会活動を実施する能力を身に付けることを目的とした事業だ。この事業では、JACAFAの職員の指導の下、卒業生たちがこれまで10の社会活動を実際に行った。その一つが、1人の卒業生が 設立したシンクタンクRegional Institute ofCentral Asia(RICA)主催のラウンドテーブルだ。 このラウンドテーブルは、報道の自由や地域間交通、河川の共同使用といった、中央アジア諸国が共通して抱える課題について各国の有識者が解決策を出し合い協議する場だ。年に3~4回開かれており、協議後はRICAがポジションペーパーを作成し、各国政府に提出する。ラウンドテーブルにはほぼ毎回、ロシアや米国の大使館職員がオブザーバー参加しており、その重要性が認識されつつある。このような事業の企画や参加者の招集、運営などを実際に経験することで、卒業生たちは事業実施に必要な能力を高めるだけでなく、人的ネットワークの拡大にもつなげている。 ほかにもACAFAは、2019年度から新たな奨学金制度を開始した。これは中央アジアの大学に通う3・4年生の人文社会科学を学ぶ学生を主な対象としている。

 

筑波大学で新たなプログラムを設置

 筑波大学で実施している事業は、2019年に開始したばかりだ。具体的には、人文社会科学研究科(修士課程)の中に、「人文社会科学研究科 修士課程 国際地域研究専攻 日本・ユーラシア研究プログラム」を新設した。ここでは、中央アジア地域の発展における重要分野であり、持続可能な開発目標(SDGs)にも含まれている産業のイノベーション、保健、平和構築を中心に研究する。筑波大学は同プログラムで研究する10名に奨学金を支給する「NipCA(日本財団中央アジア)フェロー制度」を立ち上げ、2019年度の第一回募集では中央アジア諸国より200名もの応募が届き、同プログラムへの関心の高さが伺える結果となった。このほか、筑波大学で実施している事業には、日本人学生20人を対象に中央アジアで活動する日本のNGOや企業、国際協力機構(JICA)の現場などへのインターンシップもある。また、中央アジアからの奨学生と日本人学生が一緒に参加する合同授業や交流の機会も提供している。本事業を通じて、より多くの日本人学生が中央アジア地域への関心を高めてもらうことを期待している。

 

学生をJACAFA事業の現場に送る試みも

 将来的には、先述のJACAFAが新たに始めた奨学制度を利用する学生の中から、筑波大学の日本・ユーラシア研究プログラムで修士号を取るという枠組みも作っていければと考えている。こうしたそれぞれの事業をつなげる試みはすでに始まっており、筑波大学の日本人学生が中央アジアでのインターンシップに参加する際にはJACAFAの指導の下で卒業生が実施する社会活動の現場を訪問したりもしている。また、日本・ユーラシア研究プログラムの卒業生をJACAFAネットワークに組み込み、他事業の卒業生たちとの交流も促している。こうした事業間での連携は、それぞれの事業自体もさらに発展させている。中央アジアと日本をつなぐ人材育成プログラムが成功するかどうかは、こうした事業間のシナジーを作り出すことにかかっていると言っても過言ではない。アジアのこれからのパワーバランスを 維持するためには人材育成と地域に対する強いコミットメントを持つ人材のネットワークが欠かせない。JACAFAと筑波大学の事業を一つのモデルとして、今後もこうした取り組みを広げていきたいと考えている。

 

 

 

 

 

profile

日本財団 国際事業部 国際協力チーム James Huffman 氏

 米国人。1989年に日本へ移住し、2001年より日本財団に入会。10年近く情報グループで勤めた後、2011年より国際事業部へ異動。主に中央アジアと東南アジアにおける事業を担当している

『国際開発ジャーナル』2020年3月号掲載