国際開発ジャーナル


2019.12.01

日本財団 連載第28回 
ソーシャルイノベーションの明日 

写真:義肢装具士を目指してアジア各国で学ぶ学生たち(写真はジャカルタ)

 

アジアで600人超を育成 -ISPO世界大会で義肢装具士養成事業の成果を報告

 

世界97カ国・6,000人が神戸に集結

 2019年10月5~8日、義手や義足に関わる関係者が世界中から集う国際義肢装具協会(ISPO)の第17回世界大会が、兵庫県神戸市で開催された。この大会は、義肢装具に関する学術的な技術や教育を普及・振興することを目的に3年に一度、世界各地で開催されている。1974年にスイスで第1回大会が開催され、2013年以降は隔年で実施されている。日本での開催は1989年の神戸開催と合わせて、今回で二度目だ。特に今回は、義肢装具分野の研究者や企業、関係者など、世界97カ国6,000人が参加し、過去最大規模の大会となった。企業は、義肢や補助装具などを開発している企業ら150社ほどが参加し、最新の製品が展示された。 日本財団が義肢装具分野への支援を開始したのは、1990年代初頭である。戦争や内戦の影響による地雷被害者の救済が国の再建に向けた最大の課題であった東南アジア地域を中心に、四肢を失った人々が自立した生活を送ることができるよう義手や義足を無償で提供したのが始まりだ。加えて、将来的にアジア域内の人材で義肢装具の提供を継続していけるよう、日本の専門家や英NGOエクシードと協同しながら、カンボジア、タイ、スリランカ、インドネシア、フィリピン、ミャンマーの6カ国で義肢装具士を養成する学校への支援も実施してきた。これまでの支援総額は100億円近くに上る。
 ISPO神戸大会初日に開催された開会式には2,000人以上が参加し、ISPO会長や世界保健機関(WHO)関係者など海外からの要人をはじめ、加藤勝信厚生労働大臣、井戸敏三兵庫県知事、久元喜造神戸市長も参列した。日本財団からは笹川陽平会長が登壇し、財団がアジア地域で20年以上にわたり義肢装具事業に取り組んできたことに言及した。フィリピンで出会った女性ライッサ・ローレル氏の例を取り上げ、弁護士を目指していた彼女が自爆テロによって両足を失い、それでも下を向くことなく、今では義足をつけて世界中を飛び回りながら多くの人に夢と希望を与え続けているエピソードを紹介し、会場は温かな雰囲気に包まれた。

 

地域のリーダーとして活躍する卒業生

 神戸大会ではISPO日本支部と日本財団でシンポジウムも共催し、日本財団がISPOに業務委託する形で2018年に作成した調査報告書の内容を公表した。調査とは、日本財団の支援事業がアジア地域にもたらした具体的な成果について検証するもので、実際の調査および報告書の執筆はメルボルン大学ノサール世界保健研究所が行っている。具体的には、日本財団が養成学校の設立と運営を支援したアジア6カ国を対象に調査チームが各国を訪問して、患者、卒業生、学校職員、関係者など100人以上にインタビューを行い、数量データと併せて成果が包括的に評価された。 シンポジウムでは、メルボルン大学調査チームの主幹であるウェスレイ・プライアー博士が登壇した。プライアー氏は冒頭で、日本財団の支援によってアジア各国で輩出された義肢装具士は600人を超え、彼らが患者に提供したサービスの回数は約50万回に上るとし、「アジア地域に比類ない規模の成果をもたらした事業である」と述べた。加えて、「現在の教育プログラムを発展させていくリーダーを育成することもできている」とも語った。アジア地域全体での人材の有効活用が図られている具体例としては、スリランカの卒業生がタイの修士課程に進学して義肢装具士指導者の資格を取得し、その後フィリピンの学校で指導していることなどが挙げられる。
 一方、本事業の課題についてもいくつか挙げていた。義肢装具サービスを提供できるクリニックが都市部に集中していること、義肢装具士という職業に対する認識が低く、卒業生の雇用機会が少ないこと、義肢装具部門と他の医療サービス部門との連携が不十分であること、などだ。その上で、今後は医療従事者の中で義肢装具に対する理解を高め、義肢装具サービスを他のリハビリテーションと統合し、それらを既存の医療システムに組み込むことで義手義足を必要とするすべての人にサービスが迅速かつ適切に行き届くようにしていく必要性を強調した。

 

事業継続に向けて現地にバトンを渡す

 日本財団が行う義肢装具士養成学校への支援は、基本的に10年間を区切りとしている。その間、現地の保健省や事業を実施している大学に働き掛け、資金・人材面ともに自立した学校運営を行える体制を整えた上で、各国に引き渡している。財団の支援が終了した後も学校運営が継続されるためには、義肢装具士を準医療職として位置づけ、義手義足を必要とする人がサービスを受けられる仕組みを国として確立することが必要となる。日本財団は事業の持続可能性を第一に考え、各国の保健省と連携しながら義肢装具士養成事業をこれまで進めてきた。
 病気や事故で手足を失った人、あるいは生まれつき四肢に障害がある人が、義手や義足を求めた時、その選択肢が開かれていることはとても重要 である。同時に、アジア地域で育成された義肢装具士に対しても国の中で義肢装具士としての地位が確立され、彼らの能力を生かせる環境が多数存在している必要がある。日本財団は長年行ってきた本事業を、ミャンマーを最後に終了する予定だ。これまでアジア各国で育成した600人を超える義肢装具士がネットワークを構築し、互いに知識や技術を共有し合うことで、彼らの作る質の高い義手や義足が四肢を失くした人々の未来を支え続けていくことを期待したい。

 

 

 

 

profile

日本財団  特定事業部 インクルージョン推進チーム 内山 英里子氏

 早稲田大学法学部を卒業後、同大学政治学研究科にて修士号を取得。国際法を専門に学ぶ。2016年に日本財団に入会し、主に子どもの社 会的養護事業を担当。現在は東南アジア地域を中心とした海外の障害者支援を担当している。

『国際開発ジャーナル』2019年12月号掲載