国際開発ジャーナル


2019.11.01

日本財団 連載第27回 
ソーシャルイノベーションの明日 

写真:SG2000における栽培技術指導

 

アフリカで目指す「緑の革命」 -ササカワ・アフリカ財団の新たな挑戦

 

TICAD7でサイドイベントを開催

 ササカワ・アフリカ財団(SAA)は8月28日、日本財団の助成の下、横浜市で同日に開幕した第7回アフリカ開発会議(TICAD7)の公式サイドイベント「アフリカの農業と未来 ― 若者の力と農業ビジネス」を開催した。各国の農業関係者約180人が集い、アフリカ開発銀行のアキンウミ・アデシナ総裁が農業ビジネスを学び活用することによる農村の生計や若者の機会の向上の可能性について講演を行った。加えて、招聘した日本とアフリカの若者代表の体験談を交えた議論も行われた。終盤には安倍晋三首相も挨拶に立ち、日本政府が進める「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ」を引き合いに出して、アフリカでの農業人材育成の重要性を強調した。さらにこの日は、SAAとJICAとの間で初の「農業支援の技術協力に関する覚書」も締結され、連携してアフリカの農業支援に尽力することが打ち出された。
 TICADに限らず、アフリカにおける農業人材育成の重要性は年々高まっている。背景にあるのは、長年続くアフリカの食糧問題だ。アフリカは、人口が2050年に現在の約2倍となる25億人にまで増えると予測されており、企業から熱い視線が注がれる反面、2018年の飢餓人口は2億5,000万人を超えた。人口が指数関数的に増加する一方で、食料を生産できる土地面積は有限であることが、問題解決を難しくしている原因の一つだ。 このため農作物単収の向上や、収穫物を無駄にしないための保存・加工技術の普及がより重要となるが、限られたリソースで農家一人一人を直接指導することは容易ではない。そこでSAAは、30年以上前から現地の公務員などを務める農業普及員に対して、地域のニーズに即した指導者訓練を行っている。農業普及員が地域の農家を指導することで、効率的に技術の普及をもたらす仕組みだ。

 

小規模農家に寄り添ってきた30年

 SAAは、日本財団初代会長の笹川良一、ジミー・カーター元米国大統領、ノーベル賞受賞者のノーマン・ボーローグ博士により、1986年に設立された。その目的は、アフリカ版「緑の革命」の実現だ。緑の革命は、開発途上国の小規模農家に生産性の高い品種や肥料など科学的な農業手法を導入することで技術革新を推進し、収穫量を高め、農家が自立できる道を示した。当時アフリカの飢饉に対して緊急食糧支援が中心に行われていた中で、緑の革命の実現を目指すことは画期的な試みであった。ボーローグ博士は「Take it to the farmer(農業技術を農家に)」という言葉を残したが、これはSAAの理念を如実に表したものである。
 SAAの事業は大きく分けて2種類ある。一つ目は、設立当初から続く「笹川グローバル2000(SG2000)」だ。当時、アフリカの国立農業研究所などでは農業改良技術に関する知見がすでに十分蓄積されていたが、予算や人材の問題により農家への普及があまり行われていなかった。農家も、新たな技術の導入はリスクを鑑みて避ける傾向があった。そこでSAAは、改良技術を普及するには、農業普及員や農家に対し、効果を実証してみせることが必要だと考えた。農家の圃場を用いた実践的な技術のデモンストレーション(比較実証)と研修を行い、共に検証するアプローチを取った。シーズンを通じて耕うん、播種、除草、収穫を行うことで、農家は新技術の導入に伴う費用などについて実践的に学ぶほか、改良種子の使用、施肥の方法、除草や収穫の時期などを学ぶことができる。対象はトウモロコシ、小麦、コメ、豆類など、地域の主食となる作物だ。これまでアフリカ15カ国において、数千人の農業普及員や数百万人の農民に裨益効果をもたらした。
 二つ目は、1991年から続く「笹川アフリカ農業普及教育基金(SAFE)」だ。アフリカの大学が農業開発に正面から関わるようになることと、現場の中堅農業普及員がより高度な知識や技術を習得して農家の要望に応えられるようになることの両立を目指している。その特徴は、「事業改善プロジェクト(SEP)」と呼ばれる実践研究だ。研究生は大学で座学の授業を受けた上で、実際に農家の現場を訪問し、理論と実際のギャップを埋めるべく長期の実習を行う。ここでも、小規模農家に寄り添うSAAの理念「Take it to the farmer」が貫かれている。SAFEは過去、提携するアフリカの26大学において農業普及員用のカリキュラムを作り、6,500人以上の中堅農業普及員を教育した。現在、卒業生の多くはより高度な技術を農家に指導したり、政府の農業分野の要職に就いたりしている。

 

既存事業のシナジー効果創出とJICA連携強化へ

 残念ながら、緑の革命はまだアフリカでは十分に実現していない。SAAはSAFEの重点化を軸とした新たな挑戦により、状況の打開を試みている。 第一に、従来は別々に動いていたSG2000とSAFEのシナジー効果の創出である。SG2000での農家の現場から生まれたノウハウを各地で収集し、SAFEの提携大学と分析の上で、より実践的なニーズに基づくカリキュラム作りに反映させ、新たな農業普及員育成を行う。 第二に、生産から貯蔵、加工、販売までに至る農業バリューチェーンに則った改良技術の積極的導入である。TICAD7でJICAと連携強化した理由の一つは、SHEP(市場志向型農業振興)と呼ばれるアプローチの導入だ。SHEPの概念では、「作ってから売るのではなく、売るために作る」ことにより、農家の所得向上と生活基盤改善を狙う。 アフリカ農業の前途は多難であるが、光明は差し始めている。新たな挑戦により、今後も農業技術の改良を通した飢餓の撲滅を、日本財団はSAAと共に目指していく。

 

 

 

 

 

 

 

 

profile

日本財団  特定事業部 特定事業推進チーム 神谷 圭市氏

 愛知県出身。東京工業大学工学部卒業後、日本財団に入会し、社内システム運営や日本国内の公益事業審査を経験。2018年より途上国の農業支援を担当。

『国際開発ジャーナル』2019年11月号掲載