農林・水産・生物」カテゴリーアーカイブ

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【大学の国際化最前線】東京農業大学 国際農業開発学専攻

柔軟な思考を持った農業開発専門家を育成

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(学生たちとともに。左より、高根教授、バビルさん、五野さん)

【徹底した現場志向】

 農業と国際開発。この2つの要素の連関性については、誰しもが認識しているところだ。しかし、農業と国際開発について専門的かつ実践的に学ぶことができる大学院はほとんどないのではないか。今回紹介するのは、開発途上国で人々の生活向上に寄与できる、農業・農村開発のプロフェッショナル育成に取り組む東京農業大学大学院の国際農業開発学専攻だ。

 「建学の精神で実学主義をとなえている通り、当専攻では実践性を重視している」と強調するのは、高根務教授だ。カリキュラムには経済学や政策学などの“社会科学系”と、作物学や環境学、園芸学などの“自然科学系”の授業があり、学生は研究テーマにそって両方の領域を学ぶことができる。

 授業は講義形式、ディスカッション形式、実験形式で、すべて英語で行われる。教授陣には世界中で豊富な現場経験を積んできた人材が揃えられ、ケーススタディーを活用した実践的な教育が行われており、学生への研究サポートも手厚い。また、学生の3割は留学生で、日本人含めほとんどが実務経験を積んできた人ばかりだ。たとえば同大学の学部を卒業した五野日路子さんは、青年海外協力隊でマラウィに行き、改めて国際協力を学び直したいと同大学院に入学。「留学生の出身国は中国やタイ、ガーナなどさまざま。学生同士の意見交換も活発で刺激が多い」と、充実した学生生活の様子を語ってくれた。

 さらに注目すべきは、途上国でのフィールドワークや研究機関などでのインターンシップだ。行き先は学生自身が決定しており、その際には教授陣が数々の途上国との間で培ってきたネットワークが非常に役立っているという。たとえばインドからの留学生であるバビル P.K.さんは、指導教官より紹介を受け、ナイジェリアの研究機関でヤムイモの研究に取り組んでいる。「この大学院に来て、実際に社会の役に立つ実用的な研究ができるようになった」と、実践重視の教育の成果を語ってくれた。このように、講義形式とマンツーマン指導、現場指導の三本立てで、学生を育成している。

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(ミャンマーでフィールド調査を行うインドからの留学生、バビルさん)

【途上国の実情にあった農業開発を】

 高根教授が途上国における農業・農村開発で重視するのは、その国の文化を尊重することだ。「こちらのやり方を押し付けたのでは、長期的には続かない。彼らの伝統文化を理解した上で、こちらの持っている農業技術を、彼らの生活の中でどう生かせられるかを考えていくことが重要だ」。

 学生には、途上国の役に立ちたいという熱い思いと、柔軟な思考を持った人材に育ってほしいと高根教授。「開発の現場は思い通りにいかないことが当たり前。さまざまな状況に対応できるフレキシブルな思考を身に付けてほしい。また、留学生と共に勉強する中で多様な価値観に接することも、国際開発の世界において働く上で役に立つ、貴重な経験となるだろう」。

 卒業後は、国際開発のみならず、学校や企業などに就職する人や、就農する人など、さまざまだという。就職では現場経験が問われることが多い中で、ここでのフィールド経験は大きなプラスとなるだろう。「人材を畑に返すというのがモットー。オフィスに座って指示を出すだけでなく、自分で耕して、農家の話を聞いて、現地の食べ物を一緒に食べる。そういった人に育って欲しい」。現地の人々を大切にする心を持った農業・農村開発のプロが、本研究科から世界中に飛び立っている。

(出典:「国際開発ジャーナル」2011年7月号)

【Access】
世田谷キャンパス
〒156-8502 東京都世田谷区桜丘1-1-1
URL http://www.nodai.ac.jp/

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【大学の国際化最前線】筑波大学大学院 ヒューマンバイオロジー学位プログラム

グローバルな視野から健康問題に取り組む

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(2013年は、劉雁成さんたち以外に3組がSee-D Contestで入賞した)

【教員・学生の半数は海外から】

 科学の進歩や経済のグローバル化は、人類に多くの恩恵をもたらした一方、環境汚染や国境を越えて広がる感染症などの原因となってきた。
 こうした問題に取り組むため、筑波大学は2011年秋に文部科学省「博士課程教育リーディングプログラム」に採択されたのを機に、12年に5年一貫の大学院教育「ヒューマンバイオロジー学位プログラム」を立ち上げた。同プログラムコーディネーターを務める渋谷彰教授は、同プログラムを設置した背景について、
「化学産業や食品、農薬などに新しい化学物質が使われたり、地球規模で人やモノの行き来が加速している現代社会においては、医学や生命科学、物質科学、計算科学などの知見を横断的に身に付け、技術や社会の変化と人体のメカニズムの関係性から人間の健康と福祉について考える人材が必要」だと語る。

 同プログラムに所属する約70人の教員の約半数は海外から招へいされた研究者で、専門は医学や生物学、化学、物理学など多岐にわたる。また、ここで学ぶ学生たちも、半数以上が欧米に加え、ベトナムやモロッコ、ナイジェリアなどの新興国・開発途上国からの留学生だ。

【開発途上国向けコンテストで入賞者も】

 同プログラムの学生たちは、最初の2年間で医学や生物学など多様な分野の基礎を身に付けた上で、3年目から専門の研究領域に入っていく。座学や研究室内での活動だけでなくグローバルな視野も身に付けるため、最初の2年の間に海外研修に参加することも課されている。

 海外研修は、先進国の研究所で実習する「海外ラボローテーション」、海外企業でインターンを行う「海外企業インターン」、開発途上国の課題に対して、解決策を提案し、実践まで行う「適正技術教育」から選択することができる。このうち、適正技術教育は約半数の学生が選ぶ人気コースだ。大学側は渡航費など補助として助成金を支給するが、現地調査などのアレンジは基本的に学生本人が行う。「学生が自身の力で困難を乗り越え、目的に到達する力を身に付けてもらうことが狙いだ」(渋谷教授)。

 このコースに参加した学生たちは、学内で得た知識を生かしつつも、自由な発想で現地の課題に取り組む。例えば13年に入学した劉雁成さんや新妻耕太さんは、夏休みに東ティモールに滞在し、現地の家庭で一般的に使用されているかまどから出る煙の量を抑える器具を開発。有毒な煙に起因する健康被害の軽減を目指した。この取り組みは、開発途上国向けの製品開発コンテスト「See-D Contest」で2013年最優秀賞に選ばれている。

 渋谷教授は、「学生たちには、このような研修も生かして、次世代のための新たな学問領域や事業を創り出してほしい」と熱く語っている。

(出典:「国際開発ジャーナル」2014年9月号)

【Access】
305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1
URL http://hbp.tsukuba.ac.jp/

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【私のキャリアパス】チャンスをフレキシブルに生かす

地球環境ファシリティ
上席生物多様性専門官
渡辺 陽子 さん

【渡辺さんのキャリアパス】
18歳 青山学院大学国際政治経済学部入学
21歳 アメリカのオレゴン大学に交換留学後、
   ニューヨークの国連開発計画(UNDP)
   本部でインターン
22歳 青山学院大学を卒業後、
   アメリカン大学国際開発学部で
   環境マネジメントを学ぶ
23歳 UNDPのネパール事務所でインタ―ン
24歳 アメリカン大学卒業後、
   国際協力機構(JICA)へ
25歳 JPO制度を利用してUNDP
   ネパール事務所・環境担当官
28歳 UNDPモンゴル事務所・環境担当官
   世界自然保護基金(WWF)
   モンゴル事務所副所長兼自然保護部長
30歳 WWF アメリカ事務所・
   国際機関連携プログラムマネジャー
34歳 現職

【東京の自然を見て環境問題を意識】

 幼少期をシンガポールとウィーンで過ごして帰国した時、東京に自然が少ないことに気付いたという渡辺さん。「それ以来、環境問題に強い関心を抱いてきました」。環境問題が開発と密接な関係にあると気付いたのは大学時代。しかし、当時の日本で開発学を学べる大学は少なかったため、青山学院大学で開発経済学のゼミに入り、開発と環境を両立した開発の手法について学んだ。3年次に米国オレゴン大学へ交換留学し、念願の環境学を学ぶ。講師として訪れたニューヨーク勤務の日本人国連職員にインターンシップ情報を聞き、夏休みを利用してニューヨークのUNDPでインターンとして勤務。そこで、「修士号を取ったらまた戻っておいで」と言われたことが励みになり、青山学院大学を卒業後、今度は奨学金を得てアメリカン大学の国際開発学部の修士課程に入学。留学中にUNDPネパール事務所でインターンを経験。その後、JPO制度に応募しUNDPに採用が決定。赴任までの一年は、JICA東京本部の企画部でアシスタントとして勤務した。

 25歳でUNDPネパール事務所に赴任すると、環境担当官として環境分野のプロジェクトを一手に任された。カウンターパートや上司に恵まれ、地域住民と共に国立公園や希少生物の保全を行う案件などに携わった。2年の赴任期間を終える頃、当時交際中だったご主人がJPOとしてモンゴルに赴任。自身も環境分野のコンサルタントとしてUNDPモンゴル事務所へ。WWFと共に世界最大の環境基金である地球環境ファシリティ(GEF)の資金で自然環境保全を行うプロジェクトの立案などに携わった。

【ネットワークがキャリアにつながる】

 これが縁で1年後、「規模を拡大するから」とWWFから誘いを受けた。「国連機関だけでなく、NGOのような現場に根ざした機関で専門性を高めたい」と考えていたこともあり、WWFモンゴル事務所の副所長兼自然保護部長に。国連機関とのネットワークを生かし、雪豹等の野生生物や保護地域の保全、エコツーリズムなど、多くのプログラムを円滑に拡大。その功績が認められ、2年後には国際機関連携プログラムマネジャーとしてワシントンDC事務所へ。UNDPや世界銀行、GEFなど国際機関と一層の連携推進に努め、世界中のWWF事務所と協力し多くの保全案件を立案、資金調達した。

 そして2004年の秋、重要なクライアントでもあったGEFから「生物多様性専門官のポストが空いたから応募しないか」と声をかけられた。「資金の運用・政策作りは、今後、現場に戻るにしても知っておく必要がある」と感じていた渡辺さんは、現職に応募。3年前に昇格し、現在はアジア・ヨーロッパ地域チームを総括し、自然資源・生物多様性に関するプロジェクトの審査や戦略・重点項目の策定、モニタリングなどを担当している。

 自分の強みは「さまざまな視点に立って物事が見られること」だと渡辺さん。最貧国や移行経済国など現場での経験から、プロポーザルを見れば現場の課題がある程度は分かるという。与えられたチャンスを生かしてきたキャリアパスから見えてくるのは、幅広いネットワークとライフ・ワークバランスの重要性だ。自身もミッドキャリアに到達したいま、「現場と本部の両方ができる人材でありたい」と仕事のバランス感覚を意識しながら、専門家として、二人の子どもを持つ母として、環境という専門性と開発問題という広い視野に磨きをかける。

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【大学の国際化最前線】宮崎大学 産業動物防疫リサーチセンター

アジアを中心に国際防疫ネットワークを形成

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(JICA研修の様子)

【口蹄疫の被害をバネに】

 2010年に宮崎県で猛威をふるった口蹄疫は、牛や豚など約29万頭の家畜を殺処分する事態に至り、大きな被害をもたらした。この惨禍を教訓に翌11年10月に立ち上げられたのが、宮崎大学の「産業動物防疫リサーチセンター」だ。

 センター長を務める三澤尚明教授は、設立の背景について「宮崎県は日本有数の畜産地であり、宮崎大学も以前から家畜の防疫に関する教育・研究に取り組んできた。しかし、実際に口蹄疫が発生すると、感染症の診断技術や検査体制がいかに弱く、現場での防疫措置を統括できる専門家が不足しているかを痛感した」と語る。

 三澤教授たちは、まず、病原体の研究や病気の診断、防疫策を踏まえた家畜の生産計画の策定など、防疫に関するあらゆる分野について総合的に研究・教育できる体制を整えた。例えば、センターには、CTやMRI装置などを配備した大中動物実験施設や、鳥インフルエンザの感染実験ができる飼育施設が設置され、内外問わず研究者たちが利用できる。この施設での研究から、これまでに口蹄疫を簡易かつ迅速に診断する新手法が生まれたり、食肉殺菌の新装置が開発されたりしている。

【国際研修も積極的に実施】

 経済のグローバル化によって人やモノが頻繁に国境を越えて移動する今日、海外から日本に病原体が持ち込まれる危険性は高まっている。また、開発途上国では、日本では発生しなくなった狂犬病もいまだに流行しており、対策は十分に進んでいない。「だからこそ、アジアを中心に家畜の防疫の国際ネットワーク構築が喫緊の課題」なのだと三澤教授は指摘する。

 こうした背景から、同センターでは国際協力機構(JICA)に協力し、2012~14年にかけて、東南アジア、アフリカ、南米から計19人の研修員を受け入れたほか、今年はミャンマーとタイなどの大学で、口蹄疫の簡易迅速診断の方法について研修も実施した。さらに、文部科学省の助成金を活用し、外国人研究者を招いて英語で講義を行ったり、獣医師を目指す学生を積極的に欧米やタイ、インドネシアなどの大学に短期留学させている。こうした積み重ねによって各国にネットワークが培われた結果、今年2月に東京都内で開催された国際シンポジウムには、7カ国から250人が参加した。

 三澤教授は、「学外との積極的な交流を通じて日本人学生の行動力も磨かれつつある」と指摘する。実際、昨年度は文部科学省が実施する「トビタテ!留学JAPAN」に感染症関連の研究室に所属する3人の学部生が応募し、長期留学が決定したという。「これからも自ら道を切り開ける学生を育成していきたい」と三澤教授は意気込む。

【Access】

木花キャンパス
〒889-2192 宮崎市学園木花台西1丁目1番地
URL http://www.miyazaki-u.ac.jp/cadic/index.php

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【大学の国際化最前線】東京農工大学 グリーン・クリーン食料生産を支える実践科学リーディング大学院

他者の共感を呼び起こすイノベーションリーダーを育成

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(今年2月のシンポジウムでの学生発表(写真右は若松さん)。
若松さん他5人の学生は、海外の研究者とのパネルディスカッションも行った)

【世界から熱い注目】

 2014年2月26日、東京で「世界を主導するイノベーション人材」と題した国際シンポジウムが開催され、世界11カ国・地域から招へいされた農学・工学分野の研究者のほか、企業人や学生など約180人が会場に詰めかけた。
 
 彼らの注目を集めたのは、同シンポジウムを主催した東京農工大学の修士・博士課程の5年一貫教育プログラム「グリーン・クリーン食料生産を支える実践科学リーディング大学院」に所属する学生たちの成果発表だ。当日は、サウジアラビアでレタス栽培の植物工場を設立するビジネスプランを発表した修士1年生の若松弘起さんをはじめ、ユニークかつ実践的な研究や活動の成果が発表された。

【倫理観と説得力を鍛える】

 同大学は2012年秋、文部科学省「博士課程教育リーディングプログラム」に採択されたのを機に、前出のリーディング大学院プログラムを開始した。目的は、世界の食料問題の解決に貢献する人材を育てることだが、同大学は、将来「イノベーションリーダー」となる人材を独自の観点から育成している。
 
「イノベーションとは、科学的な新発見や新奇なアイデアを出すことではなく、それを活用して社会に変化をもたらすこと。そして、イノベーターを育成するためにはアイデアを実行に移す強い意志と倫理観、他者の共感を得るための人間力を培うことが必要」だと語るのは、コーディネーターを務める千葉一裕副学長だ。
 
 同リーディング大学院プログラムではまず、最初の半年間に「キャリア開発プログラム」を設け、学生に「自分にとっての成功の定義は何か」を問い掛け、人生観を深めさせる。その後、研究室を約半年ごとにローテーションさせ、食料問題に関するさまざまなアプローチを教え、人生を通じて食料問題にどう関わっていきたいか徹底的に考えさせる。
 また、それと並行して履修する「基盤科目」では、歴史や経済、芸術などを通して自らの倫理観を鍛えるとともに、現役の起業家や芸術家を招へいし、論理と感性の両方から他人の共感を獲得する方法を学ぶ。
 
 さらに学生は、希望に応じて海外での研修や情報収集のための助成金も得られる。参加者には現地の食料問題を解決するビジネスモデルを考案することが課されるが、前出の若松さんたちのビジネスプランもまさにこうして生まれた。
 こうして修士課程の間に自らの方向性について深く洞察する訓練を積んだ学生たちは、博士課程ではより専門性の高い研究に入っていく。

 「日本の大学にはイノベーター教育が不十分。当学からそうした動きを広めていきたい」と語る千葉氏の目は、同大学を越え日本全体を見据える。

【Access】

〒184-8588 東京都小金井市中町2-24-16
URL http://web.tuat.ac.jp/~leading/