医療・福祉」カテゴリーアーカイブ

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【大学の国際化最前線】東京医科歯科大学 グローバルヘルス養成コース

国際保健分野のリーダーを養成

2016年12月には「グローバルヘルスリーダー養成コース開講記念講演」が開催された

【新大学院を設立】

 日本初の歯科医学教育機関である「東京高等歯科医学校」を前身とする国立・東京医科歯科大学は、日本で唯一の「医療系総合大学」として、長年、医歯学の教育研究を先導してきたパイオニア的存在だ。2014年には、文部科学省の実施する「スーパーグローバル大学創成支援事業」の中で、世界大学ランキングトップ100を目指す「トップ型」の1校として採択された。
 
 その取り組みの一環として、同大学が18年4月の開設に向けて準備を進めているのが「グローバルヘルスリーダー養成コース」だ。地球規模で拡大する健康問題の解決に貢献する高度人材の育成を目的とする同コースは、生物統計学、疫学、行動科学などの基礎分野に加えて「グローバルヘルス」、「健康の社会的決定要因」、「ライフコース疫学」の3つの分野横断的な領域を学ぶ修士コースだ。授業はすべて英語で行われ、2 年間で修士号( グローバル健康医学)(MPH)を取得することができる。
 
 主任教授である藤原武男教授は、「今や世界経済の動きや地球環境をはじめとするグローバル化の視点なくして、公共衛生は語れない」と指摘。さらに、日本ではまだ馴染みのない「ライフコース疫学」については、「例えば、胎児期の低栄養状態によって成人病罹患率が高まるように、人生の軌跡として健康や疾病を分析する必要がある。当大学院は、このアプローチを学ぶことのできる日本初の教育機関だ」と話した。

【世界のトップ大学に負けない教育体制】
 
 他方、東京医科歯科大学は、オーストラリア、タイなど、国際保健分野をリードする近隣国の大学との差別化も図っている。藤原教授は「グローバルヘルスリーダー養成コースでは、国際保健分野で世界トップを走る米国のハーバード大学とジョンズ・ホプキンズ大学から教授を招へいし、世界の大学に負けないカリキュラムを提供するほか、高齢化の真っただ中にある日本ならではの医療保健システムを十分に学ぶ体制を整える」と話す。
 
 さらに、教育手法にも強みがある。藤原教授は、「日本の大学にありがちな座学中心の教育の代わりに、徹底した“ケーススタディー”に力点を置く。個々の授業はもちろん、修士論文の執筆にあたっても1年次からアドバイザーを付けて、学生たちが開発途
上国などでフィールド調査に乗り出せるよう支援する」と強調した。
 
 初年度の募集人員は9人。今後はEラーニングの導入なども視野に入れながら、昼間は忙しい社会人にも門戸を広げていく方針だ。世界保健機関(WHO)をはじめとする国際機関や、保健分野に関わるグローバル企業などで活躍する人材を輩出するトップ大学院を目指している。

【Access】
〒113-8510 東京都文京区湯島1-5-45
URL http://www.tmd.ac.jp/english/faculties/graduate_school/mph/index.html

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【私のキャリアパス】起業の原点バングラデシュへ 銀行員時代も全国行脚

(株)ユーグレナ
代表取締役社長
出雲 充 さん

【出雲さんのキャリアパス】
22歳 東京大学農学部卒業後、東京三菱銀行に入行
23歳 同行を退社
28歳 (株)ユーグレナを設立
32歳 世界経済フォーラム(ダボス会議)の
   「ヤング・グローバル・リーダーズ2012」に選出

【グラミン銀行へのインターン】

 藻の一種であるミドリムシが原料の食品の製造や販売、バイオ燃料の開発などを手がける(株)ユーグレナ。同社は世界で初めてミドリムシの屋外大量培養技術を確立し、そのユニークなビジネスで話題を集めている。その創業者で社長の出雲充さんの経歴もユニークだ。東大文科Ⅲ類への入学後にインターンとして訪れたバングラデシュで途上国の栄養問題に出会い、3年進学時に農学部に“理転”。そこでミドリムシに出会ってから研究を続けたものの、いったんは銀行員として過ごした経歴を持つ。

 高校まで一度も海外に出たことがなかったという出雲さん。大学入学後にすぐパスポートを取得した。そしてその夏には“途上国援助”や“国際協力”といった意識も持たないまま、グラミン銀行のインターンとして1カ月間、バングラデシュで過ごすことに。

 「意外だったのは、現地の人たちの食事です。食べるものが何もなくて誰もがお腹を空かしているものだと思い込んでいましたが、カレーライスと豆スープはお腹いっぱいになるほどある。そこで、バランスの悪い栄養事情が問題だと知ったのです」。その時受けた衝撃が途上国問題に関心を持つことになったきっかけだという。帰国後には早速、途上国の栄養事情を改善できる方法がないかを調べた。途上国援助に携わる国際機関にも興味がわき、国連開発計画(UNDP)でアルバイトをしたこともあった。

 ただ、国際機関に勤めることにならなかったのは、「問題を解決できるようなモノを直接届けたい」という思いを抑えきれなかったためだ。理転したのも、そうした思いが理由だった。

【“理転”後に出会ったミドリムシ】

 農学部では、ユーグレナをともに設立することになる鈴木健吾さんと出会い、その鈴木さんを通じてミドリムシのことを知る。それからは、当時は誰も確立していなかった培養技術の研究に没頭した。

 起業への思いを胸に秘め、経営知識や人との出会いを求めて銀行に入ってからも、研究は続いた。休日はミドリムシ研究者に教えを乞うべく夜行バスで全国の大学を訪ね歩き、平日も仕事が終われば鈴木さんの家に転がり込み研究の進捗について語り合う毎日。出雲さんは「社員寮に戻らないことも多かったものですから、上司や同僚からいぶかしがられていたかもしれません」と笑う。

 研究者を訪ね回るうち、「本気で打ち込まなければ研究成果を提供してくれる先生方に申し訳ない」という思いを持つようになり、起業を決意。技術的なめどが立たないままの起業に不安もあったが、結果的には設立後3カ月あまりで屋外での大量培養技術を確立できた。
 それから7年。政府開発援助(ODA)を活用した外務省の中小企業などの海外展開支援事業の「案件化調査」に、ミドリムシを使ってバングラデシュの栄養状態の改善を目指す同社の提案が採択された。そしてこの1月、出雲さんは起業の“原点”の地であるバングラデシュに立った。同国を訪れたのは実に15年ぶり。「自動車や携帯電話の普及など当時とは大きく変わった面もありましたが、食生活や食育の状況には変化がありませんでした。でも、カレーやスープに当社の食品やサプリメントを加えるような形で提供すれば、十分お役に立てるのではないかと手応えを感じました」と話す。

 今は現地企業と組んで事業化できないか、具体的な検討を進めている。

(出典:「国際開発ジャーナル」2013年4月号)

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【大学の国際化最前線】筑波大学大学院 ヒューマンバイオロジー学位プログラム

グローバルな視野から健康問題に取り組む

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(2013年は、劉雁成さんたち以外に3組がSee-D Contestで入賞した)

【教員・学生の半数は海外から】

 科学の進歩や経済のグローバル化は、人類に多くの恩恵をもたらした一方、環境汚染や国境を越えて広がる感染症などの原因となってきた。
 こうした問題に取り組むため、筑波大学は2011年秋に文部科学省「博士課程教育リーディングプログラム」に採択されたのを機に、12年に5年一貫の大学院教育「ヒューマンバイオロジー学位プログラム」を立ち上げた。同プログラムコーディネーターを務める渋谷彰教授は、同プログラムを設置した背景について、
「化学産業や食品、農薬などに新しい化学物質が使われたり、地球規模で人やモノの行き来が加速している現代社会においては、医学や生命科学、物質科学、計算科学などの知見を横断的に身に付け、技術や社会の変化と人体のメカニズムの関係性から人間の健康と福祉について考える人材が必要」だと語る。

 同プログラムに所属する約70人の教員の約半数は海外から招へいされた研究者で、専門は医学や生物学、化学、物理学など多岐にわたる。また、ここで学ぶ学生たちも、半数以上が欧米に加え、ベトナムやモロッコ、ナイジェリアなどの新興国・開発途上国からの留学生だ。

【開発途上国向けコンテストで入賞者も】

 同プログラムの学生たちは、最初の2年間で医学や生物学など多様な分野の基礎を身に付けた上で、3年目から専門の研究領域に入っていく。座学や研究室内での活動だけでなくグローバルな視野も身に付けるため、最初の2年の間に海外研修に参加することも課されている。

 海外研修は、先進国の研究所で実習する「海外ラボローテーション」、海外企業でインターンを行う「海外企業インターン」、開発途上国の課題に対して、解決策を提案し、実践まで行う「適正技術教育」から選択することができる。このうち、適正技術教育は約半数の学生が選ぶ人気コースだ。大学側は渡航費など補助として助成金を支給するが、現地調査などのアレンジは基本的に学生本人が行う。「学生が自身の力で困難を乗り越え、目的に到達する力を身に付けてもらうことが狙いだ」(渋谷教授)。

 このコースに参加した学生たちは、学内で得た知識を生かしつつも、自由な発想で現地の課題に取り組む。例えば13年に入学した劉雁成さんや新妻耕太さんは、夏休みに東ティモールに滞在し、現地の家庭で一般的に使用されているかまどから出る煙の量を抑える器具を開発。有毒な煙に起因する健康被害の軽減を目指した。この取り組みは、開発途上国向けの製品開発コンテスト「See-D Contest」で2013年最優秀賞に選ばれている。

 渋谷教授は、「学生たちには、このような研修も生かして、次世代のための新たな学問領域や事業を創り出してほしい」と熱く語っている。

(出典:「国際開発ジャーナル」2014年9月号)

【Access】
305-8577 茨城県つくば市天王台1-1-1
URL http://hbp.tsukuba.ac.jp/

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【大学の国際化最前線】三重大学 医学部

国内地域と世界を見据えた医療人材を育成

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(ザンビアで実施された海外臨床実習の様子)

【国際標準を踏まえた教育】

 医療サービスを海外展開したり、外国人患者を受け入れることに対して消極的な医療関係者をはじめ、とかく「内向き」だと言われる日本の医療業界。そんな業界文化に風穴を開ける取り組みが、三重大学医学部で進んでいる。
 同学部は、1980年代から国際協力機構(JICA)の保健医療プロジェクトに数多く関わってきた。そこで培った海外の大学や医療機関とのネットワークを生かし、2007年には海外で診療体験などを行う6年生向けの「海外臨床実習」を、09年には海外の医療プロジェクトを視察する1~4年生向けの「海外早期体験実習」を開始した。前者のプログラムには、これまで累計約400人、後者は約200人以上が参加しており、うち約半数は欧米に、残りの半数はアフリカなど開発途上国へと派遣されている。国際交流担当副学長の堀浩樹教授は、こうした海外実習の狙いについて、「世界に通用する医療人材を育てること」だと指摘する。

 この背景には、グローバル化の進展に伴い、外国で治療を受ける医療ツーリズムの盛り上がりや、医者が海外で医療を行うケースの増加が挙げられる。こうした状況に対応するため、欧米では近年、医学教育の国際標準化や高度化に向けた動きが進んでいる上、新興国や開発途上国の大学でも、欧米などにならって医学教育の強化に取り組んでいる。その一方で、日本では日本語の教科書をベースにした医学教育が行われており、英語の教科書で授業が行われている世界の医学教育に追い付いていないのが現状だ。前出の堀教授は、「海外実習プログラムを通じて世界の医学教育や医療現場の現状に触れることで、学生たちは自分がどんな力を身に付けるべきか、考えるきっかけになる」と話す。

【学生と教員の意識を変える】

 さらに堀教授は、「現在の学生たちは、20~30年後には日本の医療を担う人材になる。彼らの意識を変えることが、将来的に日本の医療業界の変革につながる」とも指摘する。現在、大学院の医学研究科では将来的に現地の医療業界の指導者になる人材との関係を強化するために、アフリカなどから多くの留学生を受け入れているが、彼らの存在は、学生だけでなく教員に対しても、国際化に向けた意識付けを図る良いきっかけになっているようだ。

 医療人材の不足などの問題を抱える日本の地域医療も、開発途上国の医療現場が抱える問題点と多くの共通点があるという。「開発途上国で海外実習を行えば、日本の地域医療の改善につながる知見も得られるはずだ」。

 日本の医療業界の文化は一朝一夕では変わらない。しかし三重大学は、長期的展望の下で着実に歩み続け、変革の風を起こそうとしている。

(出典:「国際開発ジャーナル」2015年9月号)

【Access】
〒514-8507 三重県津市栗真町屋町1577
URL http://www.mie-u.ac.jp/

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【大学の国際化最前線】新潟医療福祉大学

研修通じて専門性深める

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(海外研修の様子)

【大洋州から訪れる研修員】

 近年、食習慣が急速に変化し、肥満や糖尿病などの生活習慣病が拡大している大洋州の国々。こうした国々の保健局で働く職員らが、2009年から毎年訪れる場所がある。新潟市北区にキャンパスを構える新潟医療福祉大学だ。

 同大学は、「QOL(生活の質向上)サポーターの育成」を理念に掲げ、2000年の開学以来、保健医療や福祉、栄養学、スポーツ医学などの分野で多くの人材を輩出してきた。そして09年からは、国際協力機構(JICA)から委託を受けて、フィジーをはじめ大洋州の国々から研修生を受け入れ、生活習慣病対策に関するワークショップなどを実施している。

 研修の受け入れ先として同大学に白羽の矢が立てられた理由について、健康科学部の佐藤大輔講師は、「本学は新潟市などと連携し、地域の生活習慣病対策に長年取り組んできた経験があるため」だと語る。もちろん、同学が、かねてより医療実務者を育成する教育機関としては珍しいほど、積極的に国際化を進めてきたということも非常に大きい。

 同学は開学以来、「英語等短期研修助成制度」などの支援制度を設け、より多くの学生の海外研修への参加を積極的に後押ししてきた。そうした方針が奏功し、欧米や、東南アジアなどの開発途上国を訪問して現地の福祉団体などで研修やボランティア活動に参加する学生たちが徐々に増え、12年には120人以上の参加を数えた。さらに、修士課程に在籍する大学院生が、同大学に在籍したまま青年海外協力隊に参加できるプログラムも同年に開始している。

【異文化の中で専門性深める】

 だが、卒業後も海外で活躍している人数は、現時点では決して多いとは言えない。一部の学生が、卒業後に青年海外協力隊に参加する程度だ。そうした中、国際化を進める意義はどこにあるのか。

 学生の海外派遣を担当する医療技術学部の古西勇准教授は、「異文化体験は、自らの専門性を深めるのに役立つ」と指摘する。「本学で身に付ける専門知識やスキルが、日本と異なる社会・文化背景においても通用するのか。そうした問題に向き合うことが、一人一人の能力を高め、ひいては日本の医療の質向上にもつながる」。

 アジアの国々で高齢化や介護の在り方が新たな社会問題として顕在化するなど、開発途上国における保健医療や福祉の課題は年々高度化しつつある。そうした中、まずは日本国内における医療や福祉の質向上をしていくことが、結果として世界に貢献できる日本にもつながる。海外向け人材の輩出自体はまだ少なくても、学生の海外派遣を積極的に進め、そして現在は研修生の受け入れ先として選ばれるようになった同大学の取り組みは、そうした真理を物語っているように思えた。

【Access】

〒950-3198 新潟市北区島見町1398番地
URL http://www.nuhw.ac.jp/