中国からのグーグル撤退と今後の世界

グーグル撤退に無反応のヨーロッパ
 中国から米国のグーグルが撤退した。大きな理由は中国側の情報の検閲で言論の自由が失われたことです。確かに、日本の憲法にも言論の自由が保証されています。
 米国はその本家ですから、グーグルという一企業体を越える形で、米国政府自ら厳しく抗議し、公正な貿易取引を妨害したのでWTO(世界貿易機関)に提訴するといって騒いでいます。
 ところが、米国の先祖である欧州諸国は、大市場に成長した中国を敵に回したくないので、それほど米国に同調していない。言論の自由も中国の経済権益の確保という意味で影が薄くなるようですね。

中国の治安と言論
 言論の自由とひと口でいっても、時代により、国の発展段階により異なるようですね。中国の共産党政権による一党独裁支配は、毛沢東時代から共産主義に陶酔したわけではなく、国を統治する手段として重視されているわけです。  
私は1995年に北京で、政府の幹部に言われた言葉を今も忘れません。「あなたたちは家を建てる前に、庭を先に造りますか。あなたたちの言う民主化は、中国にとっては家を建てる前に庭を造れというようなものです」。つまり、中国という国家の基礎が固まる前に、安易に欧米流の民主化を導入すると、今の中国の全国統治が崩れる恐れがあると言いたかったのでしょうね。1995年でなく2010年においても、中国の各地で貧困層と富裕層との所得ギャップが生まれて、ちょっとしたトラブルが大規模な大衆暴動へ発展する状況です。

揺れるパックスアメリカーナ
 中国政府はあの巨大な人口と国土を統治するには、人びとの欲求を相当に抑圧しないと、すぐに治安が乱れ、国家分断という危機に陥る恐れを感じているようです。人びとの欲求を抑えるという点で、インターネット情報は最大の危険分子になると考えているのでしょう。
 国が少しでも乱れると、その割れ目から国家分断もあり得ると、中国の過去の歴史を学習しているので、危険な存在(グーグル)に敏感に反応したといえますね。民主主義のモデル国家を誇る米国はそういう中国事情をわかっていても、言論の自由にこだわらざるを得ない立場にあるのでしょうね。米国は建前上、グーグル撤退を許せない心情だと思います。
 しかし、実際の世界は、G7がG20に拡大するなど、必ずしもパックスアメリカーナ(米国支配)ではなくなっています。新興国の中国はインド、ブラジル、インドネシアと共にポスト冷戦での初めての世界秩序再編成へ向かっている存在になりつつあります。その急先鋒の中国を米国はどう押さえ込むつもりでしょうか。

政治家の歴史感覚
 ミャンマーの軍事独裁政権にも対応できなくなっている世界的状況の中で、グーグルに端を発する米国の権威は大いに揺れているようです。そうした時代的な感覚を日本人がどのくらい持っているのでしょうか。特に、戦後50年以上も継続されている沖縄の米軍基地政策を考える政治家の歴史感覚と洞察力がどのくらいあるのか、疑問を感じる今日この頃です。