ミャンマー軍事政権への雪解け作戦 経済制裁だけが万能ではない

アウン・サン・スー・チーさんの重荷
 ミャンマーの軍事政権は8月11日、民主化指導者アウン・サン・スー・チーさんに対し、再び1年半の自宅軟禁を命じた。罪状は米国人を無断で自宅に滞在させたとして国家防御法違反。日本の報道筋は来年予定される総選挙から締め出す暴挙だと批判する。「判決に深く失望した」と潘基文・国連事務総長。EUは新たな制裁を準備するとの声明を出した。
ミャンマー軍事政権には国連も欧米もASEAN自身(内政不干渉の原則)もお手上げ状態。日本は圧力より対話を重視してきたが、朝日新聞社説は、核開発の臭いがある以上、「対話など悠長なことは言ってられない」と強行だ。学者も「日本の適切な対応といった遠回しな働きかけでは何のインパクトもない」と発言する。

どうすればよいの
 それでは具体的にどうすればよいのか。北朝鮮のように、経済制裁だけでは効き目がなさそうだ。米国もクリントン元大統領を北朝鮮に派遣して、行き詰まり打開を水面下で図ろうとしている。米国としては体制的に信用できない国への核の拡散を抑え込まないと、持てば得する方式で危険な国まで持つようになれば、欧米の考える世界秩序は破壊されるだけだ。
 しかし、そうはいっても地政学的にも経済的にも得にならないミャンマーに欧米は本格的に圧力をかける動機が薄い。だから、一応口先だけの制裁であって、たとえば、より強力な軍事的圧力をかけられるはずもない。短兵急の軍事行動は国連の場で拒絶されるに決まっている。ASEANも反対しよう。

圧力一辺倒への反省
 そこでもう一度、経済制裁一辺倒の国際的圧力を考え直し、むしろ市場経済化支援を行い、新しい人材を育成しながら開かれた国家にしていかなければならない。時間をかけて軍事政権に一種の安心感を与えながら雪解けを待つことも一つの選択ではないだろうか。この気長さが混沌のアジアへの対処方法であるともいえる。
 かつてフィリピンのマルコス独裁、インドネシアのスハルト独裁も20~30年の歳月をかけて、大きな犠牲者を出すこともなく雪解けさせてきた。圧力だけが解決方法ではないことをもう少し過去から学習すべきでしょうね。
 ここは、日本がミャンマーに権益をもつ中国やインドとも水面下で話し合いながら、一定期間、軍事政権の既得権益を保証する形でミャンマーの民族独立を担保し、当面、経済開発などを中心にした経済協力を提案することも一考ではないだろうか。
 欧米は人権、民主化の原則を押し付けて圧力をかける。これをミャンマーから見れば、かつてビルマを植民地化して多大な富を収奪した旧宗主国の英国にはいわれたくないという気持ちが強い。これは古い時代に属する話だといわれるかもしれないが、かつての英国はビルマ人の人権をどれほど奪ったか、非民主的ではなかったというビルマ民族的な呪詛が軍部の底流にあることにも視線を向けるべきだ、という意見もある。
 「いや、それは軍部の独裁維持のためのいいわけだ」と反論する人もいるだろう。しかし、若い軍人たちには民族主義的な信仰も強いので、むしろ民族主義を利用した現独裁体制に気付かせることも大切ではないでしょうか。