【インタビュー】新JICAへの期待(衆議院議員 山内康一 氏)[2008.10.09]

シンクタンク的機能の強化に期待
実施機関から実施促進機関へ

mryamauchi.jpg
衆議院議員 山内 康一 氏

[プロフィール] 1973年に福岡県に生まれる。96年に国際基督教大学教養学部国際関係学科卒、04年にロンドン大学教育研究所修士課程(教育と国際開発)修了。国際協力機構(JICA)、NPO法人ピースウィンズ・ジャパン勤務を経て、05年9月に衆議院議員に当選(候補者公募)。現在、自民党で国際NGO小委員会事務局長、改革実行本部幹事、国際局次長などを務める。

国際協力機構(JICA)とNGOという立場から、ODAの前線で活躍してきた経験を持つ山内康一氏は、ODAの現場をもっともよく知る国会議員であり、“JJ統合推進派”の一人として知られている。この山内議員に、これまでの経験を踏まえ、統合のメリット、新JICAの可能性や期待することなどを聞いた。

小規模円借款の可能性

この10月、国際協力銀行(JBIC)の有償資金協力業務(円借款)がJICAに承継され、新JICAが誕生する。私は、この統合の推進派の一人だった。というのも、もともと円借款業務を行ってきた海外経済協力基金(OECF)とJICAは、審査機能や評価機能、あるいは調査機能など、かなりの部分で重複していたからだ。当然、統合した方が効率的であるし、“相乗効果”も生まれるだろうと考えていた。

ただこれまでにも、JICAとJBICの連携というものはあった。JICAで開発調査を行い、それを円借款につなげる。あるいは、JICAの無償資金協力で首都にセンターをつくり、それをモデルケースに、円借款を活用して全国に展開するといったことは、10年も20年も前から行われてきた。こうした連携をより強固にするために、そしてまったく新しい効果を生み出すためにも、やはり統合は必要だ。

今年日本でアフリカ開発会議やG8北海道洞爺湖サミットが開催され、アフリカ支援に注目が集まっている。今後、この地域に対して円借款を展開していくときには、JICAが持つネットワークや知見が生かされるだろう。JBICはJICAと比較し、在外事務所の数が圧倒的に少ない。これまではこうした制約もあって、なかなか円借款の地域的拡大は進んでいなかった。 

特定地域に円借款が集中しがちな要因はほかにもある。“ロット”の問題だ。つまり、1案件あたりの規模が小さなものでも数十億円と、貧しい国は借りづらいといった側面があった。円借款のボリュームといった特徴が、借り手により、魅力にも障害にもなっていた。そうした意味では、10億円程度の、規模が小さい円借款があってもいい。

今回の統合により、こうした無償資金協力としては大きいが円借款としては小さい、そんな案件をつくっていける可能性が出てくる。これまで小規模の円借款が現実的に難しかったのは、先の事務所の話にも関係するが、人員が少なかったことが一因だ。これまで円借款を動かしていたのは300名程度。この限られた人数で数千億規模の仕事をするには、どうしてもロットが大きくなってしまう。これも、重複する業務を一本化することで、少なからず解消できるだろう。円借款に柔軟性を持たせる意味でも、統合はプラスになる。

スキームベースからの脱却必要

日本のODAのあり方として、私は、あまり短期的な国益を追求しすぎるのはよくないと考えている。短期的な国益の追求は、結果として長期的な国益を損ねてしまうからだ。したがって、資源確保やタイド案件などばかりに目を向けるという発想はよくない。逆に、日本として得意な分野に力を入れていくという発想が必要だ。例えば環境や省エネなど、日本には世界に秀でた技術や経験がある。そうした比較優位がある分野で、「二個間関係をよくする」、「地球環境を守る」といった大局的な視点に立って貢献していくという発想が必要だ。その際に重要なのは、手段に固執しない、とらわれないということ。これまで少なからず、手段に固執する発想があった。これはスキームベースの考え方が影響しているのだろう。JICAでもJBICでも、スキームから入っていこうとする。こうした発想を捨てることが、新JICAを構築していく上で特に重要だ。

目的を達成するためには、円借款なのか、無償資金協力なのか、技術協力なのか、あるいはその組み合わせなのか。さらには、本当にJICAがやることが最良の選択なのかを考えていくことで、NGOや大学、研究機関などに任せるという選択があってもいいし、民間が行っているCSRを側面支援したっていい。こうした個別のスキームにとらわれない発想が広範囲な連携を生む。国際協力のアクターが多様化している現在、“援助手段選択の工夫”が必要になってきている。
往々にして、「NGOや大学は実施能力に不安がある」いった見方には、申請や精算書類などのペーパーワークに不慣れなことが原因となっている。JICAのスキームに自分たちがやりたいことを落とし込めない。逆にそれが上手なのはコンサルタント。彼らは仕組みも内容も熟知しているし、JICAもこうした相手と仕事をする方が楽な場合もあるだろう。ただし、それが質の高い援助とイコールであるとは限らない。新JICAは、今まで以上に、こうした不慣れなアクターに対しても双方向で対話をする機会や姿勢を持ってもらいたい。

将来的にJICAは、ODAの実施機関というよりも“実施促進機関”のような役割を担っていくことが、1つの方向性かもしれない。JICAは全体のフレームワークを考え、適当なアクターに対して資金を提供する。案件監理も、細かな予算執行などに労力を投入するのではなく、事後評価を中心に行っていくことで案件実施の自由度を高めていく。それには、これまでの業務委託という考え方ではいけない。NGOや大学、企業などとパートナーシップを構築していくという発想が重要だ。そうすれば、より少ないコストで質の高い援助ができる可能性が出てくる。

“ムダ撲滅”に向けコスト意識を

現在、ODA予算は非常に厳しい状況にある。私はこれ以上、減らすことが良いことだとは考えていない。むしろ増やしてもいい。ただ前提として求められるのは、コストに対する意識だ。外から見れば、まだまだJICAもJBICもコスト意識は低いし無駄が多い。

日本に限らず、世界の援助業界全体にいえることだが、特権階級意識というものがとても強い。ある国際機関の職員は、いまだに航空機での移動にファーストクラスを使っていると聞く。そこにはいろんな理論や反論があるのかもしれないが、少なくとも日本の援助機関はそうであってはならない。民間企業では、本社の課長や部長クラスでもなかなかビジネスクラスにさえ乗れない時代。コストに対する意識と工夫がなければ国民の理解は得られない。

夫婦でJICA職員である場合には、2人そろって同じ在外事務所に赴任できるよう配慮する。これはほんの一例だが、こうすることで住居手当は半分になる。赴任する国にもよるが、これだけで年間で数百万円の節約になる。これを積み重ねれば大きな金額になるし、夫婦で赴任できるということは、当人にとっても幸せなことだろう。

もうひとつ例を挙げれば、休暇制度についても工夫、見直しの余地がある。外務省やJICAでは、在外勤務の場合、年に1回、1カ月程度の休暇が認められている。これは、海外がまだ遠い異国の地であった時代、航空機ではなく船旅だった時代の発想に立った休暇制度だ。もちろん、勤務状況が過酷な国や地域では、多少は考慮されてしかるべきだとは思う。しかし職員全体の休暇制度を見直すことで、人を増員したのと同じ効果が見込める。コスト意識や工夫がないところからよい援助は生まれない、ということを新JICAは真摯に受け止めてほしい。

世界に向け日本の知的ソフトを発信せよ

私が新JICAに期待したいのは、シンクタンク的な機能を強化し、日本の援助ポリシーを世界に向けて発信していくということだ。国際機関でもない、他のドナー国でもない、日本独自の視点というものをこれまでの経験から導き出し、発信していく。もちろんJICA事業にフィードバックしていくことも重要だろう。世界に認められる開発課題や開発目標といったコンセプトやモードをつくることでは、残念ながら日本は、まだまだ力不足だ。それでも「人間の安全保障」など、最近ではそうした場面で日本がプレゼンスを発揮する例も出てきている。

フランスでは、過去30年ほどかけて中近東研究のシンクタンクを育ててきた結果、現在では世界中からこの地域に関する情報は、すべてパリに集まるようになった。

新JICAには、新たに研究機能が加わることになった。開発援助というフィールドで、あるいはアジアという枠組みで、日本にシンクタンクのセンターのようなものがつくれたら大きな財産となる。JICAの研修スキームを活用し、海外から研究者を招聘することも可能だ。研究者を抱え込むというよりも、研究者や研究機関同士のネットワークをつくり、その “ハブ”的な存在となることを目指すことが重要だ。そうして、“知的なソフトで戦えるJICA”というものをつくってほしい。