外務省国際協力局長就任インタビュー(木寺昌人 氏)[2008.11.8]

官民連携をODAの柱に
木寺新局長インタビュー

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外務省国際協力局長 木寺昌人 氏

アフリカ開発会議(TICAD IV)、北海道洞爺湖サミットという大きな会議を終え、それらの成果をいかに実行に移してくかが問われているなかで、外務省で政府開発援助(ODA)を担当する国際協力局長に木寺昌人氏が就任した。10月には新JICAも発足し、これらの会議で議論された施策がどのように実施されていくのかに注目が集まる。こうした節目にあたり、ODAの方向性などについて、木寺局長に聞いた。
(インタビュア: 本誌編集長 日下 基)

冷え込むODAへの関心

—ODAを取り巻く現状をどう認識しているか。

10数年前に無償資金協力課長としてODAを担当して以来、今回久しぶりに経済協力の部署に戻ってきたが、その間、この分野は大きな変化を遂げていた。残念ながら、現状ではこの分野には「冷たい風が吹いている」という印象だ。

一つは、ODAの額の問題だ。日本のODAは、一般会計予算ベースでみると、ピーク時から4割以上減っている。企業もODAにあまり関心をもたなくなってきている。

そして、いわゆる「PCI事件」(コンサルタント企業「パシフィックコンサルタンツインターナショナル:PCI」が、ベトナムのODAプロジェクト受注をめぐりベトナム側に賄賂を渡したことが発覚した事件)の影響は大きい。これは二重の意味であってはならない事件だった。すなわち、まず贈賄は断じてあってはならないということ。もう一つは、日本のODAとともに歩んできたともいえるPCIという会社でこういった事件が起こったということの重大さだ。今後はこうしたことが起こらないように、外務省としても全力を尽くしていく。

ODAの額が減っているが、日本経済の状況も思わしくない。国内では物価高、ガソリン高が市民を直撃している。市民の間に「ODAどころじゃないでしょう」という実感があることは政治家も認識している。ただ、ODAは日本の限られた外交手段である。ODAの額の問題は、政治レベルでしっかり議論していただきたい。

—今年はアフリカ開発会議やサミットがあり、国際開発の分野で日本の存在感をアピールできた年だが、この成果をどう今後につなげていくか。

今年のTICAD IVと北海道洞爺湖サミットでは、アフリカ開発がかつてないほど日本で注目された。私は今年1月から外務省のアフリカ審議官となり、TICADとサミットに臨んだが、TICADはアフリカ側にも好評だった。欧米も、日本はよくやってくれたとの印象をもっている。アフリカ各国に駐在している大使からは、先方政府との対話がスムーズにいくようになったという声もある。

サミットでも、アフリカ問題についてこれまでに比べてもより実質的な議論ができたと思っている。これらの会議で打ちあげたものを、これから着実に実施していかなければならない。

企業とODAの“再会”を

—日本のODAの当面の課題は何か。

官民連携が一番のポイントとなる。アフリカ支援に限らず、TICADの準備段階で、企業の意見を集約していただいた。それをもとに官民連携の方針を決め、すでに商社などの企業に説明を始めている。

企業の話を伺うと、かなり具体的な国や分野への関心を持っていることがわかった。ただ、進出のリスクやコストが高く、最後の踏ん切りがつかないケースが多いようだ。例えばODAで道路や港などのインフラが整備できれば、企業のリスクも軽減される。一方、アフリカが望んでいるのも企業からの投資だ。経済成長を達成するためには、企業の進出を支援できるようなODAの使い方も考えなければならない。

—企業のなかには、ODAに関わってもあまり儲からないし、コンプライアンスなどの観点からリスクを感じているところも多い。

もともと日本のODAは官民連携がなされていた。例えば、タイの東部臨海地域では、ODAで工業団地を造成し、電力、水などのインフラを整備、人材育成も行った。その結果、日本企業がタイに進出し、タイ経済発展の重要な要素となった。これはODAと企業が連携した成功例だ。日本だけでアフリカすべてをカバーできるわけではないが、こうした事例が一部でもできればいい。すでに、アフリカには日本から複数の企業が参加した官民ミッションが派遣されているが、企業と連携して、アフリカでいい案件を作り上げていきたい。もちろん、他の地域でも官民連携は進めていきたい。

残念なのは、企業がODAに関心を失っていることだ。企業からみれば、最近のODA案件は魅力がない、制約が多いなどといわれているが、われわれも企業とのコミュニケーションを緊密にしていきたい。アフリカを舞台とした企業とODAの“再会”を期待したい。
 
新JICAは迅速できめ細かい支援を

—新JICAが誕生したが、その役割をどう認識しているか。

これまでのODAの体制では、JICAが技術協力と無償資金協力の実施促進、外務省が無償資金協力、JBICが有償資金協力を担当していたが、この3つの制度を一つ屋根の下で行うべきだという議論は以前からあった。今回、これら3つの手法を一つの援助実施機関が行うことになったことで、より迅速できめの細かい支援が期待される。

JICAにおける体制も、国を中心に組織編制が行われている。それによって案件形成から実施後の維持管理まで、一つの部署で一貫して見るようになることはメリットだ。

—対外的には新組織をどのようにアピールするか。

JICAはこれまで何十年も技術協力の機関として実績を積み上げてきた。JICAの名前は海外でも通っている。JICAが円借款も担当するということで、組織が重きをなすことにつながり、より有効な援助を実施していけるのではないか。

現場での成果知ってほしい

—来年度ODA予算の重点項目は何か。

外務省は、来年度予算の概算要求では今年度比13.6%増の5,006.2億円を要求している。無償資金協力については160億円増(10.1%)の1,748億円。JICAは6.5%増の1,638.4億円。分担金・拠出金は57.3%増の804.6億円となっている。このなかには、日本が提唱して2002年に設立された「世界エイズ・結核・マラリア対策基金」への拠出240億円が含まれている。

—ODAをみる国民の目は厳しい。ODAの必要性について、どのようなアピールを考えているか。

まずはODAを担当している外務省、JICAなどの行政機関、参画している企業やNGOなどが緊張感をもって仕事をしていくことが必要だ。同時に、広報に力を入れていきたい。残念なことに、ODAの成果が出て相手国の人たちが喜んでいるという事実は、マスコミではあまり報道されない。日本がさまざまな国で行っている経済協力の現状と、日本人が現場で汗を流しながらがんばっている事実を国民の皆様にもっと知ってもらいたい。マスコミが記事を書かざるを得ないようないい情報を提供していくことも外務省の役割だと思っている。

—経済協力分野での経験が長いが、これまでの仕事で印象に残っていることは何か。

1986年から88年に南東アジア1課で勤務し、カンボジア和平を担当し、カンボジアと出会った。その後、91年から93年には中国課に配属され、モンゴルを担当した。この2国には親日的な国になってほしいと思い、一生懸命無償資金協力をしたことを思い出す。最近、両国の国内で産業が興り、日本と両国との関係が深まっているのを見て、大変うれしく感じる。日本の外交は、短期間の利益を求めるのではなく、長い間をかけてじっくりやるところに特徴がある。

また、97年、タイに公使として赴任した翌日に、バーツが急落し、アジア経済危機が始まった。そのときはJICA、海外経済協力基金、日本輸出入銀行、JETROの所長と集まり、日本の支援策を話し合い、政策パッケージを作り実行に移していった。これが、現在世界各地に広がっている「ODA現地タスクフォース」の原型にもなった。日本の関係者がオールジャパンでしっかりコミュニケーションをとったことで、いい結果が出せたと思っている。

今日のテーマとなっている官民連携にしろ、新JICAにしろ、うまくいく秘訣は関わる人たちとの間における「コミュニケーション」だと思っている。コミュニケーションを密にして仕事のスピードを上げていき、ODAの効果を強調していきたい。

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(外務省資料)